自然保護運動をめぐる危機的状況

〜経団連や行政による取り込みがすごい!〜

中山敏則





 日本の自然保護運動は近年、様相が大きく変わった。財界や行政による自然保護団体の取り込みがすごい勢いですすんでいる。大手ゼネコン、原発メーカー、デベロッパー(開発業者)などから巨額の資金援助をうけ、潤沢な資金をもつ団体が幅をきかせている。他方で、自立性を保ちながら自然破壊に抵抗する団体は絶滅危惧種となりつつある。何が起きているのか。


行政からの自立性を喪失

 1960年代以降、全国各地で大規模な開発がおこなわれた。開発優先のもとで、大気汚染や水質汚染などが深刻になった。海、山、川、湿原などの自然もあちこちで破壊がすすんだ。そのため、人間もその一環をなす自然の生態系がゆらぎはじめたという危機感が国民の間でわきあがった。

 こうした危機感を背景に、1970年代になると自然保護団体がつぎつぎと誕生する。全国自然保護連合も1971年に結成された。自然保護運動が各地でくりひろげられた。公害反対運動との連携も各地でみられた。1970年代前半の自然保護団体は、そのほとんどが行政や大企業がすすめる環境破壊に真っ向から抵抗するという姿勢をつらぬいた。

 ところが1970年代後半になると、自然保護団体の変質がはじまった。それまで住民運動や市民運動を敵視していた大企業や行政が市民団体の抱き込みに力をそそぐようになったからである。莫大なカネをエサにし、行政の施策に協力する市民団体を育成するようになった。

 こんな指摘がある。
    《70年代初頭の住民運動は、行政権力に対して鋭い緊張感をもち、政府「公共」の強制に抵抗する高い精神をもっていた。「すべての(公共)の決定を住民の手に取りもどす」ために、住民の自立性を強く主張した。(中略)だが、70年代後半に入り、自治体政治が自治体経営へと転換する過程で、住民運動は市民活動へとその席をゆずる。そして市民活動の多くはかつて運動のもっていた権力との緊張関係を束の間に弛緩させ、行政からの自立性を喪失した。「私たちは地域社会に貢献しているのだから行政が協力するのは当然」が「行政が補助金を出してくれるならば私たちは地域社会に貢献する」に変わるとき、市民活動の多くは行政に包絡され、利用されることとなる。行政との協力がすべて悪いと言っているわけではない。「民活」の流れの中で行政の下請け化も自覚できずに行政と安易に癒着していく市民活動の精神こそ問題なのである。》(中村紀一編著『住民運動“私”論─実践者からみた自治の思想』創土社)


取り込みのはじまりは日本野鳥の会の変質

 大企業よる自然保護団体の取り込みは日本野鳥の会からはじまった。

 日本野鳥の会は日本最大の自然保護団体とされている。1979年、日本野鳥の会でクーデターがおこった。野鳥の会の創設者である中西悟堂氏が会長の座からひきずりおろされ、事実上追放されたのである。このクーデターについて、悟堂氏は手記でこう書いている。
     「先般、野鳥の会に起こった騒動は、会45年の歴史に汚点をつけた事件であった。それだけでなく、肝腎の私が会を横取りされて自分の方から脱会したという、不様(ぶざま)な事件であった」(『AERA』1993年6月8日号の「会長退任 悟堂手記に綴られた無念」より)
 この事件以降、日本野鳥の会本部は自然破壊に荷担するようになる。環境や生態系に大きな影響を与える開発の環境アセスメント(環境影響評価)を積極的に受託した。たとえば仙台市・蒲生(がもう)干潟の前面海域の埋め立てである。ジャーナリストの平澤正夫氏はこう記している。
    《蒲生干潟は60年代の仙台湾拡張工事によって3分の2をうずめられた。さらに78年、新たに仙台国際貿易港建設計画がもちあがり、3分の1にされてしまった蒲生干潟の前面の海が200ヘクタールも埋めたてられることになった。これでは干潟が死んでしまうと、地元の「蒲生を守る会」が反対した。国際貿易港建設の事業主体である宮城県は、鳥類にかんする環境アセスメントを野鳥の会に依頼した。環境アセスの最終判定は知事がおこなうが、事業主体が県なのだから八百長もいいところ、結果ははじめからわかっている。それでも、野鳥の会は「守る会」の反対を無視して依頼をうけいれ、アセス調査をした。調査をすれば調査費がはいる。だが、野鳥の会の狙いはそんなチャチなものではなかった。干潟の一部にサンクチュアリをつくらせるという条件で、八百長アセスにはまった。干潟の自然を売った。このことを、私は本誌で「開発に身売りした“メシくう自然保護”のなれの果て」と書いた。野鳥の会は急所をつかれて逆上、これも名誉毀損といきまいた。》(平澤正夫「『日本野鳥の会』との10年戦争」、『宝石』1998年8月号)
 埋め立て計画に反対していた「蒲生を守る会」は、野鳥の会に公開質問状をおくった。だが回答はない。「蒲生を守る会」の代表を長年つとめた木村フジさんは、日本野鳥の会をこう批判した。
    《県は、野鳥の会という野鳥の調査では誰からも文句の出ない団体にアセスメントを引き受けさせて埋立計画を一歩進め、野鳥の会は念願のサンクチュアリ計画を実現するために開発に手を貸した。》(木村フジ「蒲生干潟を守れ」、全国自然保護連合編『自然保護事典A 海』緑風出版)
 環境アセスの受託を中心になってすすめたのは花輪伸一氏である。当時、花輪氏は日本野鳥の会の本部に勤務していた。

 野鳥の会は関西新空港建設の環境アセスもひきうけた。建設に反対する地元の市民団体から「調査をひきうけないでほしい」という申し入れがあったが、それを無視した。

 野鳥の会のこうしたおこないをとりあげた週刊誌『AERA』1993年6月8日号は、「野鳥の会を自然保護団体と呼ぶのは、企業と行政、それにマスコミだけではないか」との声を紹介している。

 野鳥の会は、会費収入よりも調査などの受託収入のほうがずっと多い。同会は、環境アセスのほかに、調査や設計、運営管理などの事業を行政から山ほど受託している。平澤正夫氏は、自著『汚染された自然保護─日本野鳥の会を検証する』(三一書房、1992年)でこう記した。
    《野鳥の会は、バードウォッチング同好の士の集まりなのではない。これだけ多種多様の受託事業をこなし、調査費などをえて、有給の専従職員のメシのタネにしている。》

    《自然破壊に加担するだけではすむまい。行政から注文をとって、事業をおこないつづけると、自分自身に行政の体質がしみこみ、行政に同化してしまう。野鳥の会が行政との密接な関係をひけらかし、地域や末端の人びとが自然破壊に反対してほしいと要請しても、関心をしめさなかったり、水をかけたりすることは、蒲生を守る会への対応をみただけでもわかる》

    《会費収入よりも断然多いのが受託収入の1億6434万円。一般会費の約2倍で22パーセントにもなる。環境庁や自治体の鼻息をうかがいながら委託調査の注文とりにはげみ、住民には自然保護のポーズをみせつけ、実際には行政や企業とつるんで自然破壊の片棒をかつぐ──その一端がバランスシートにみごとにあらわれている。収入面からみるかぎり、野鳥の会は、見せかけの草の根組織と自然保護を呼号する自然破壊商社といわざるをえない。》
 日本野鳥の会の現在の年間予算は10億円以上、会員・サポーターは5万人、支部は90支部、役員・職員は120人である。




日本野鳥の会の創設者・中西悟堂氏の手記をとりあげた『AERA』
1993年6月8日号。悟堂氏は手記で「会を横取りされた」と書いている




日本野鳥の会変質の黒幕は三井不動産の江戸英雄氏

 日本野鳥の会のクーデターと変質の黒幕は三井不動産の江戸英雄社長(当時)である。

 江戸氏は友納武人千葉県知事と組み、東京湾岸の千葉側をかたっぱしから埋め立てて暴利をむさぼった。たとえば東京ディズニーランドの関連埋め立て地(343万ヘクタール)である。埋め立て免許は千葉県が取得したが、じっさいは三井不動産の子会社「オリエンタルランド」(オ社)が埋め立て工事をおこなった。埋め立て後の土地もオ社がそっくり手に入れた。親会社の三井不動産は埋め立て地のかなりの部分をオ社から横取りし、取得費の数倍あるいは数十倍の値段で転売して大もうけした。その利益は一銭も県に渡さなかった。

 江戸氏は『三井と歩んだ七〇年』(朝日文庫)でこう自慢している。「北のほうは浦安ディズニーランドまで、千葉県の埋め立てはほとんど、われわれのほうが中心でやった」。

 三井不動産は千葉県を意のままにあやつった。そのため、千葉県は「三井不動産のエージェンシ−(代理機関)」とよばれた。

 千葉の埋め立てを手がける前の三井不動産は三井資本の傍流にすぎなかった。わずか3棟の中小ビルを所有していただけだった。それが、千葉の埋め立てによって三菱地所を追い抜き、日本一の不動産会社に大躍進したのである。

 東京湾の干潟を埋め立てまくった江戸英雄氏は、日本野鳥の会の買収にも乗りだした。城山三郎氏(作家)のインタビューに、江戸氏はこう答えている。
     「日本野鳥の会にも入り、会長の中西悟堂さんの指導も受けました。(中略)そのうちに野鳥の会が経済的に参って来ていることが判り、亡くなりました木川田さんや、同好の財界人と語らい再建したんです。財界から1000万ほど寄付をもらって、財団法人にして、大会社から100口ほど、特別会員になってもらって年間10万円ぐらいの寄付をもらうことにして、今の日本野鳥の会の基礎を固めました。今は大変繁盛しまして全国的に発展しています」(城山三郎『静かなタフネス10の人生』文春文庫)
 「同好の財界人と語らい再建した」というのは、日本野鳥の会の中西悟堂氏追放と買収を意味する。

 悟堂氏は手記(前出)のなかで江戸氏をきびしく批判した。
     「僅(わず)かばかりの面子(メンツ)のために、会の創立者であり、名実共に、その育成者である私を敢(あ)えて犠牲にする道を取った以上、私としては彼を許すわけにはいかない。その立場から言えば、彼が初めから私を助けるように振る舞ったのも、畢竟(ひっきょう)見せかけで、デベロッパー一流の深謀遠慮であったのだ、と言われても致し方あるまい」



千葉支部の承認を取り消す

 日本野鳥の会の本部は、まじめに自然保護にとりくんでいた同会千葉支部(現在の千葉県野鳥の会)の支部承認を取り消し、新しく「日本野鳥の会千葉県支部」を結成させた。

 千葉支部は悟堂氏の追放と日本野鳥の会本部の変質をきびしく批判した。本部が関西新空港の環境アセスをひきうけたときも、千葉支部は受託を批判した。そのため、千葉支部は1981年に支部承認を取り消され、名称を「千葉県野鳥の会」に変更した。現在の「日本野鳥の会千葉県(支部)」は本部によって新しくつくられた支部である。いわば「第二組合」のようなものである。

 新たに結成された千葉県支部は、三番瀬の人工干潟造成計画に賛成したり、後述の「三番瀬フォーラムグループ」といっしょに三番瀬のラムサール条約登録に反対する意見書を千葉県知事に提出したりしている。


自然破壊の大企業が資金援助

 その後、財界や行政は、総ぐるみで自然保護団体の懐柔や取り込みを強めるようになった。資金援助による買収である。財界の総本山である経団連(日本経済団体連合会)は、1993年度から2016年度までに37億円を自然保護団体に助成している。年間約1億5000万円である。

 その手法は、経団連のなかに「経団連自然保護基金」という名の組織を設け、会員企業(大企業)から寄付金をつのる。そして、経団連の意に沿った自然保護団体に資金を提供するというものである。資金援助に協力している大企業のなかには、自然破壊の公共土木工事を手がけている大手ゼネコンも含まれる。鹿島建設、清水建設、大成建設、大林組である。この4社は、リニア中央新幹線の建設工事をめぐり不正受注調整をおこなったとして起訴された。ほかに東芝、日立製作所などの原発メーカーも資金を提供している。東京湾の干潟をかたっぱしから埋め立ててボロもうけし、日本野鳥の会を変質させた三井不動産も経団連の資金援助に協力している。

 経団連とはべつに、自然保護団体にたいして直接助成している大企業も多い。たとえばトヨタ自動車は毎年1億円を環境団体に助成している。









資金援助の目的は懐柔・取り込み

 こうした資金援助は、その多くが環境団体の懐柔・取り込みにつながっている。たとえば市川市に拠点をおく「三番瀬フォーラムグループ」は、大企業や市川市などから多額のカネをもらいだしてから姿勢が大きく変わった。三番瀬の埋め立てについては、反対から容認に変わった。三番瀬のラムサール条約登録に反対する意見書も知事に提出するようになった。

 経団連から資金援助を得ている環境団体は、反原発運動はしない。憲法改悪にも反対しない。資金援助の審査ではねられたり、援助を打ち切られたりするからである。


苦闘を強いられる草の根運動

 財界・行政の資金援助強化にともない、草の根の自然保護運動は苦難を強いられつつある。

 経団連などから莫大な資金をもらっている団体は、東京都内に事務所をかまえることができる。専従スタッフをおくこともできる。役員会議などにかかる交通費もふんだんにだすことができる。

 さらに経団連から資金援助をうけている全国団体は、潤沢な資金をもちいて全国各地の草の根団体に多額の助成金をばらまいている。影響力を高めることが目的である。
 組織の維持・拡大という点では、交通費を全額だしてくれたり、助成金をばらまいたりする団体のほうが圧倒的に有利である。会費収入だけで運営している団体のなかには、資金力が豊かな団体に会員が移るなどきびしい運営を強いられているところもある。


解散の危機に瀕した日本湿地ネットワーク

 日本湿地ネットワーク(JAWAN)は、全国各地の湿地保全団体でつくる連携組織である。各地の湿地保全運動で大きな役割をはたしてきた。藤前干潟(名古屋市)や三番瀬(東京湾)の埋め立てを中止させた運動でも大きな貢献をした。

 そのJAWANを解散するという話が2008年11月に突然もちあがった。当時、JAWANの一部メンバーなどが「ラムサールCOP10のための日本NGOネットワーク」(通称:ラムネット)という組織をつくっていた。このラムネットの後継組織を結成し、そこにJAWANの会員(団体会員と個人会員)をすべて自動的に組み入れる(強制合流)という提案がだされたのである。ようするに乗っ取りである。

 一部の運営委員は秘密裡に会合などを重ね、JAWANの解散とラムネット後継組織への強制合流の計画を着々とすすめた。そして2008年11月22日にひらかれたJAWAN運営委員会で突然、JAWANの解散とラムネットへの強制合流を提案した。きちんと議論することも、決をとることもなく、提案が合意されたというあつかいになった。総会をひらかずに、たった1回の運営委員会によってJAWANの解散と合流が決定されたということになった。

 わたしたち会員は、解散反対の運営委員からその事実を知らされた。当然のことながら、批判の声がわきあがった。「解散するかどうかは総会できめるべき」という声が高まった。

 そこで翌2009年の1月10日、臨時の運営委員会がひらかれた。議論の結果、解散するか存続するかを総会できめることになった。わたしもこの日の運営委員会にオブザーバーとして参加し、総会開催を強く求めた。

 総会は翌2月の22日に東京都内でひらかれた。総会には2つの案が提案された。
  A案…JAWANを解散し、「ラムネット」 後継組織に合流する
  B案…JAWANは解散せず、存続させる

 採択の結果はこうである。
  A案…賛成30、反対80、棄権2
  B案…賛成78、反対32、棄権2

 この結果、JAWANの存続がきまった。

 わずか1回の運営委員会でJAWANの解散を突然提案し、議論もせずに解散が決定されたようにあつかう。こんな非民主的なやりかたに2人の弁護士が深くかかわった。浅野正富弁護士と堀良一弁護士である。このことに何人もの会員がショックをうけた。

 また、前述の花輪伸一氏も、JAWAN解散の企てに中心人物として加わった。「蒲生を守る会」の反対を無視し、蒲生干潟前面海域の埋め立て事業の環境アセスをひきうけたあの花輪氏である。


JAWAN解散危機のウラに経団連の資金援助

 日本湿地ネットワーク(JAWAN)解散騒動のウラには、経団連などからの資金獲得があった。2009年1月10日の運営委員会で配布された資料には、JAWANを解散し、会員を「ラムネット」後継組織に自動的に合流させることの趣旨としてこんなことが書かれている。
    《日本の湿地保全NGOのナショナルセンターになっていくということであり、事務所、専従スタッフを早急に用意できる強い足腰を作ることが緊喫の課題である。名古屋COP10のために有力企業が動き出している中では、2010年まででも経済的支援を得られるパートナー探しを早急に行うべきである》
 つまり、「経済的支援を得られるパートナー」の獲得を最大の目的としていたのである。パートナーというのは経団連などである。

 総会の結果、JAWANは存続がきまった。解散・合流をめざしていた運営委員は、他団体のメンバーといっしょに同年4月、「ラムサール・ネットワーク日本」(ラムネット)を結成した。

 ラムネットは経団連や行政、そして行政の外郭団体などから巨額の財政支援を得つづけている。資金を提供しているのは、前述のように大手ゼネコンや原発メーカー、そして東京湾の干潟を破壊しまくった三井不動産などである。

 ラムネットの2016年度決算をみると、収入合計は約1574万円である。そのうち、財界や行政関係団体などからの助成・委託費は1463万円におよぶ。じつに収入の93%を助成・委託費が占めている。

 経団連からラムネットへの資金援助はこうなっている。2010年度400万円、2011年度280万円、2012年度360万円、2013年度312万円、2016年度102万円。

 経団連は、日本を支配している財界の総本山である。経団連は、政党、経済団体、労働組合、市民団体などさまざまな団体を取り込んでの大政翼賛化をめざしている。自然保護団体の取り込みはその一環である。ラムネットは、潤沢な資金をもちいて、2017年も全国各地の湿地保全10団体に30万円ずつ計300万円を助成している。


財政支援は麻薬と同じ

 経団連などから財政支援を得ることについて、ラムネットの役員と議論したことがある。この役員はこう主張した。
     「湿地保全運動も資金が必要だ。経団連などから資金援助をうけるのはやむを得ないこと。それがなぜ悪いのか」
 だが、経団連や行政などから巨額の財政支援を得る団体が環境破壊の公共事業や原発建設を阻止することは不可能である。それは事実が示している。

 たとえば日本の原発建設は17カ所(54基)である。これにたいし、原発を建設させなかった地域は34カ所もある。新潟県の巻町(新潟市西蒲区)、石川県の寺家・高屋(珠洲市)、福井県の小浜市、和歌山県の小浦・阿尾(日高町)、日置川町(白浜町)、古座町(串本町)、那智勝浦町、山口県の萩市、高知県の佐賀町(黒潮町)、窪川町(四万十町)などである。

 このように、原発建設地よりも原発をつくらせなかった地域のほうがはるかに多い。そして、原発建設を阻止した運動で財界や行政から資金援助をうけたものはひとつもない。すべて手弁当の住民運動である。これは環境破壊の公共土木事業を止めた運動もおなじだ。

 経団連や行政による財政援助は麻薬とおなじである。財政援助に頼るようになると、会費収入だけではやっていけなくなる。原発立地自治体が原発マネーへの依存から脱却できなくなるのとおなじである。


過去の教訓を学んでほしい

 日本ではいま、行政や財界から多額の金をもらうことに血まなこになる環境団体が激増している。行政や経団連も市民団体の抱き込みに力を入れている。大政翼賛会づくりを着々とすすめているのである。

 かつて、作家の松本清張や政治学者の丸山眞男は、財界から資金援助を得ることに警鐘をならしていた。清張はこうのべた。利潤を追求する企業集団(財界)がなんらの見返りなしに莫大な寄付をだすはずはない。大企業が多額の寄付をするのは、その何倍もの利益になってもどってくるからである、と(『松本清張 社会評論集』講談社文庫)。

 じっさいに、労働組合や市民団体などへの多額の資金援助は大企業の支配強化や安倍自民党政権の長期化にむすびついている。それは、財界に懐柔された日本労働組合総連合会(連合)が野党共闘や脱原発運動のひろがりを妨害していることをみてもあきらかである。

 ところがいまは、経団連などよる市民団体の取り込みを問題視する学者、研究者、ジャーナリスト、文筆家はほとんどいない。メディアもとりあげない。

 リニア工事をめぐる談合で大手ゼネコンを批判しても、それらのゼネコンから自然保護団体が多額の資金援助を得ていることには目をつぶる。経団連は自民党や一部野党への政治献金を会員企業によびかけている。これについては、「カネで政治家に言うことをきかせる」とか「カネによって政治家や政党や政策を買収するもので、金権腐敗の温床になる」と批判する。だが、経団連が環境団体をカネで懐柔していることはまったくふれない。いったいどうなっているの、かとわたしは歯がみをしている。

 戦前の日本は、ドイツやイタリアなどとちがって反ファシズム運動がまったくおきなかった。政治的勢力や民間組織のほとんどが大政翼賛会に吸収されたからである。その教訓がまったくいかされていない。「戦争する国づくり」をめざす憲法改悪が目前にせまっているいま、底辺の動きをみすえるとともに、過去の教訓をしっかり学んでほしいと思う。
(2018年4月)





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