河川改修の工法を変更させ、

桜並木を保存・復元させた運動

〜真間川の桜並木を守る市民の会〜








 市川市の真間川(ままがわ)流域では約400本の桜並木を保存・復元させました。流域全体の総合的な総合治水対策もすすんでいます。昨年12月5日の「自然と環境を守る交流会」で、「真間川の桜並木を守る市民の会」の鳥居雪子さんがこの運動を報告しました。報告内容を紹介します。(『全国自然通信』編集部)


生い立ち

 真間川は市川市の住宅街を流れる一級河川である。上流域に松戸市、船橋市、鎌ヶ谷市をかかえる典型的な都市河川である。
 中下流部に位置する市川の地域は、昔から水害が頻発する低湿地であった。1960年代以降、都市化が急速にすすんだ。そのため流域の保水・遊水機能は著しく低下し、大きな水害が起きやすくなった。
 真間川の中流部約2kmの区間は樹齢約40年の桜並木と緑の土手があり、花見の名所となっていた。1960年代の後半以降は下流から徐々にコンクリート護岸の河川改修がすすんだ。


「さくらの会」の発足

 1979(昭和54)年4月、河川改修のために約400本の桜並木をすべて伐採するという話がもちあがった。それを聞いた周辺住民は「真間川の桜並木を守る市民の会」(略称「さくらの会」)を結成した。会は桜並木の伐採に反対するとともに、河川を拡幅しない水害対策を求めて活動をはじめた。
 偶然にも、この年は真間川水系が「総合治水対策指定河川」に指定された年でもあった。「さくらの会」はつぎの2つを目的にかかげた。
  • 総合的な治水対策の実現
  • 水と緑と土を生かした河川環境づくりとまちづくり
 川はたんなる排水路ではない。改修前の川には緑の土手と桜並木があった。これらは、春には花見、夏には涼しい緑陰と、四季を通じて自然の恩恵を与えていた。「さくらの会」は、桜並木を残しながら水害対策を講じる方法があるはず、と訴えた。


苦渋の選択

 運動をはじめたころ、新聞は「治水か桜か」「安全か環境か」という二者択一の短絡的な記事を載せた。「さくらの会」は「治水も環境(景観)も大事」を訴えつづけた。約2万人の署名を市議会と県議会に提出し、桜並木を伐採しない治水対策を求めた。
 運動をはじめてから3年目の1981(昭和56)年秋、台風24号によって真間川流域は甚大な水害にみまわれた。真間川は「河川激甚災害対策特別緊急事業」に指定され、河川改修が急速にすすむことになった。
「さくらの会」は県と交渉をつづけた。その結果、桜並木の171本はやむなく伐採されることになった。だが、残る区間は河川拡幅をせずに河床を深く掘る形にするという案を県がだした。約200本の桜は伐採を免れることになった。苦渋の選択だった。  171本の桜の伐採にあたり、「さくらの会」は千葉県とつぎの約束をした。
  • 以前と同じように川側に桜並木を復元させる。
  • 河川環境づくりと治水対策について話し合いをつづける。
     当時は河川改修後に高(こう)木(ぼく)を川側に植栽することは認められていなかった。「さくらの会」は県とねばり強く交渉した。建設省(当時)への要望も重ねた。その結果、川側に桜並木を復元することがきまった。


本物の総合的な治水対策への転換を

「さくらの会」は、1981年の水害をきっかけにつぎのことを確信した。水害の原因は川にあるのではなく「土地の利用方法」にある。上流部の緑の保全や、遊水地の確保、貯留浸透などの総合的な治水対策をしなければ水害は解決しない、ということである。
 田畑が減り、宅地が増え、アスファルト、コンクリートだらけのまちになれば、雨は一気に川に集まる。水害をなくすためには、雨水をできるだけゆっくり川へ集めることが重要である。雨水の流出を抑制し、“時間差出勤”のような対策を講じるということである。
 約400本の桜並木は、半分が残され、残り半分は河川改修後に復元された。遊水地や分水路、雨水貯留施設の整備などがすすんだ。
 真間川流域では、「自然環境の保全・復元」や「動植物に触れ合える環境学習の場」を兼ねた自然度の高い調節池(遊水池)づくりもすすんでいる。たとえば、完成している大柏川第一調節池は、ふだんは「環境学習の場」や市民の憩いの場として利用されている。
 2014年、国は「水循環基本法」を施行した。雨水を川へ捨てずに積極的に土に戻し、健全な水の循環を維持し推進させようというものである。
 総合治水の考え方を一歩すすめたこの法律を掛け声だけに終わらせず、実効性のあるものにすることが重要である。治水対策はあいわらず河川改修が重点となっているからだ。


治水と環境の両立をめざす

 桜並木が復元したからといって「さくらの会」の役割は終わらない。桜並木伐採の原因となった水害対策が本物でなければ、いつまた同じことがくりかえされるかわからない。
「さくらの会」は、総合的な治水対策の実現を願い、桜が復元されたあとも県や市と治水対策について話し合いをつづけている。川沿いの道や川の中にも土を残し、緑の多い河川環境となるよう、県や市と話をつづけている。治水と環境についての話し合いは「さくらの会」の発足以来200回を超えた。
 桜並木は住宅地の中の貴重な緑地空間の象徴である。400本の桜の維持管理のため、2014年から戸籍づくりを兼ねて健康調査にとりくんでいる。桜の木1本ごとに番号札をつけた。
  「さくらの会」は、歴史ある大切な桜並木をいつまでも残していけるように、これからもよりよい河川環境づくりをすすめていくことにしている。真間川流域を水害のない安心して住めるまちにするために総合的な治水対策をおしすすめ、「治水と環境の両立」をめざして活動をつづけていきたい。
(2016年4月)



〔編集部メモ〕
 市川市は、「真間川流域の総合治水対策」を紹介したホームページでつぎのように記しています。
      「(平成25年台風26号では)市内各所で浸水被害が発生したものの、これまで本市を襲った大きな台風と比較すると、市街地化の進展と相対的に、浸水被害は大幅に減少しています。これまでに河川改修や、調節池などの治水施設の整備を進めてきましたが、これらの機能が発揮されただけでなく、市民の協力のもと実施している雨水の貯留・浸透による流出抑制対策の効果が現れたものと考えられます」








1981年台風24号の水害の様子=さくらの会提供




河川改修前の春の桜並木=1981年頃、光フォト撮影




桜を保存して河川改修した区間=2016年4月3日撮影




大勢の花見客でにぎわう桜並木=2016年4月3日撮影




真間川流域の総合治水対策の一環で整備された大柏川第一調節池(市川市)。
ふだんは「動植物に触れあえる環境学習の場」として利用されている。
野鳥観察会も開かれている=全国自然保護連合撮影




大柏川第一調節池の越流堤。いざというときはここから大柏川(手前)の洪水を調節池
(向こう側)に流入させ、下流域の浸水被害を軽減させる=全国自然保護連合撮影



総合治水対策

千葉県のパンフレットより









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