「瀬戸内法」改正案(自公案)の修正を求める
〜環瀬戸内海会議〜
環瀬戸内海会議が求める改正点
瀬戸内海沿岸の市民・団体で構成する環瀬戸内海会議は、瀬戸内法(瀬戸内海環境保全特別措置法)の改正を求めて運動してきました。今年(2014年)3月、8万人の請願署名を国会に提出しました。
請願署名が求めているのは次の3点です。@瀬戸内海の汚染と破壊の元凶である埋め立てを全面禁止する。A瀬戸内海とその水系における産業廃棄物持ち込みを全面禁止する。B生態系を破壊してきた海砂採取を瀬戸内全県で全面禁止する。
自民・公明両党による改正案の問題点
一方、自民・公明両党が先の通常国会に「瀬戸内海環境保全特別法改正案」を提出しました。この自公案は大いに問題ありです。主な問題点は3つです。
(1)現行法にある「富栄養化による被害発生の防止」の条項を削除するとしている。
-
瀬戸内海はいまも富栄養化が深刻な問題になっています。富栄養化が赤潮や青潮をもたらしているからです。漁業にも被害を与えています。したがって、「富栄養化による被害発生の防止」を削除するのはとんでもないことです。
赤潮……プランクトンの異常発生によって海水が変色する現象。水が赤く
染まることが多いため「赤潮」と呼ばれる。
青潮……極端に酸素の少ない「貧酸素水塊」が海面に浮上して起こる現象。
貧酸素水塊は、富栄養化した海で大量のプランクトンが生まれ、
その死骸が海底で分解される際に水中の酸素を消費することで発
生する。青潮は漁業などに被害をおよぼす。イオウ粒子やイオウ
化合物が含まれているために、水面が青白く見える。「苦潮(に
がしお)」とよぶ地域もある。
(2)現行法第1条に記載されている「自然海浜の保全等」を「自然海浜の保全、環境保全のための事業の推進等」に改めるとしている。
-
「事業」の内容が具体的でありません。また、現行法にない言葉として「再生及び創出」が盛り込まれています。「再生」や「創出」の名による新たな自然破壊事業が危惧されます。自然の干潟や浅瀬をつぶして人工干潟を造成するなどです。現に、東京湾などでは「再生」の名でそういうことがおこなわれています。
(3)瀬戸内海のこれ以上の環境悪化を防ぐためには埋め立てを原則禁止することが必要なのに、自公案はそれを無視している。
自公案の修正を求めて議員要請
というわけで、環瀬戸内海会議は自公案の修正を求めて国会ロビー(議員要請)活動を続けています。環瀬戸内海会議が求めている修正点は次の3つです。
- 「富栄養化による被害の発生の防止」の条項は削除せず、富栄養化が赤潮と貧酸素海域を発生させてきたことに鑑(かんが)み、赤潮と貧酸素海域の対策を盛り込む。
- 改正案では「自然海浜の保全、環境保全のための事業の促進等」に改めるとしているが、「事業案」の内容が具体性に欠け、環境破壊につながりかねないので、改正しない。
- 現行法第13条では、公有水面埋め立ての承認について「瀬戸内海の特殊性につき十分配慮しなければならない」とある。これを「特別な必要がない限り原則として禁止とする」に改める。
また、瀬戸内海沿岸のいくつかの県議会から自公案の早期成立を求める意見書が出されています。漁獲量減少の原因は“貧栄養化”という意味のことを記述した意見書もあるそうです。
環瀬戸内海会議は議員にこんな話をしています。
-
「“貧栄養化”は瀬戸内海のごく一部で起きている局地的・特殊的現象である。全体的には富栄養化が問題となっている。富栄養化を原因とする赤潮はいまも年間100件くらい発生している。青潮も深刻な被害をひきおこしている。青潮は、富栄養化の著しい海域において底層の貧酸素水塊が表面に上昇するため貧酸素海域になってしまうという現象である。富栄養化を原因とする赤潮や貧酸素海域の慢性的発生は、瀬戸内海の豊穣の海を損なっている。とりわけ、富栄養化の結果としての貧酸素化対策は不可欠である」
何人かの議員が両院の環境委員会で修正意見を出してくれそうです。
環境省と話し合い
(2014年)10月10日、改正案(自公案)について、環境省大臣官房の早水輝好審議官(水・大気環境局担当)とも話し合いました。閉鎖性海域対策室の根木桂三室長なども同席です。
審議官は、「瀬戸内法改正案は議員立法なので行政府はタッチできない」としながら、「富栄養化による被害発生防止」条項を削除することについてこう述べました。
-
「瀬戸内法が制定されたあとで水質汚濁防止法を改正し、CODに加えて窒素・リンも総量規制するようになった。水質汚濁防止法により、削減指導ではなく強い規制をやっている。なので、瀬戸内法の『富栄養化による被害発生防止』条項はいまは使っていない。空文になっているということだ。したがって、この条項を削減するという改正案は、法律的にも施策的にも問題がない。富栄養化の防止や規制は、法律的には水質汚濁防止法で担保されている」
-
「水質汚濁防止法によって窒素・リンの総量規制がされているというのはわかる。しかし、瀬戸内海では富栄養化が相変わらず問題になっている。また、海域によって違いがあるが、赤潮や貧酸素海域も慢性的に発生している。瀬戸内法の制定時は貧酸素海域の問題は考慮されていなかった。その後、水質汚濁防止法にもとづいて窒素・リンの総量規制がされることになったが、うまくいっていない。瀬戸内法改正案(自公案)は、こうした赤潮や貧酸素海域をどうするかいうことについていっさいふれていない」
「中央環境審議会による答申『瀬戸内海における今後の目指すべき将来像と環境保全・再生のあり方』や環境省が示した『瀬戸内海環境保全基本計画』変更案では、富栄養化と貧酸素水塊の問題や、その対策にもふれている。しかし、自公案はそれらについてまったくふれていない。そればかりか、現行法にある富栄養化被害発生防止の条項を削除するとしている。この条項を削除すれば、もう富栄養化対策は講じなくてもいいと読みとられてしまう。だから、私たちは削除に反対している」
「改正案の早期成立を求めている一部漁協は、ノリの色落ちの原因として“貧栄養化”をあげている。しかし、ノリ色落ちの原因はいろいろある。たとえば神戸沖では、潮の流れが速いところでノリの色落ちが起きている。潮の流れが速いと栄養分が流れてしまう。香川県もおなじだ。逆に、有明海のように、富栄養化が進んでいる海でもノリの色落ちが起きている。したがって、ノリの色落ちと“貧栄養化”を結びつけ、瀬戸内海の富栄養化は解決したと言うのは短絡的だ」
環瀬戸内海会議はこんな質問もしました。
-
「改正案の早期成立を求める人たちは、『瀬戸内海はきれいになりすぎた』と言っている。また、一部の研究者は、『瀬戸内海では富栄養化ではなく貧栄養化が問題になっている。だから下水処理を緩和すべき』などと主張している。この点に関する環境省の見解を教えてほしい」
-
「立場の違いによって、いろいろな方がいろいろなことを述べていると理解している。環境省としては、瀬戸内海をきめこまかく見たり、きめこまかい対策を講じたりすることが必要だと考えている」
江田五月参院議員(左)に要請する環瀬戸内海会議のメンバー=9月19日
環境省の審議官など(左奥)と話し合い=10月10日
★関連ページ
- 辺野古埋め立て計画の中止を求める〜環瀬戸内海会議が環境・防衛両大臣と沖縄県知事に要請(2013/12/24)
このページの頭にもどります
前ページにもどります
[トップページ] [報告・主張] [動き] [決議・意見書] [全国交流会] [自然通信] [出版物]