飯能市のメガソーラーをめぐって


加治丘陵の自然を考える会・飯能 榎本孝次







「森林文化都市宣言」を標榜する埼玉県飯能市の市有地にメガソーラー(大規模太陽光発電施設)が建設されています。入間市、飯能市、青梅市にまたがった「加治丘陵」と呼ばれる、混交林が広がる自然豊かな場所です。

 飯能市の80%は森林で、そのほとんどは針葉樹です。飯能市は今後60年かけて混交林に戻す取り組みを進めています。建設地の阿須山中の森は、飯能市が理想とする混交林です。そんな森を「地方創生」と称して、サッカー場を隠れ蓑にした工事を飯能市が進めています。

 現在、パネル設置場所の土木工事はほぼ終了しています。調整池の工事が完了するとパネルを含めた電気工事を行い、今年4月には送電が開始されます。


加治丘陵の自然を考える会・飯能の活動

「加治(かじ)丘陵の自然を考える会・飯能」は、この事業を阻止するために結成されました。共産党も参加しています。ややもするとメガソーラーの反対運動に偏りがちですが、あくまでも自然豊かな加治丘陵を守るための市民の運動を堅持しています。

 中止署名を市に1万3500筆提出し、国・県・市への要望や要請行動をかさねました。日本熊森協会と共催でシンポジウムも開きました。TBSテレビ「噂の!東京マガジン」でも放映され、現地住民による中止訴訟の支援などを行ってきました。現状の工事の進捗を考慮し、工事中止だけでなく、完成後でもパネルを撤去させて、広場に広葉樹を植える「阿須山中! 希望の森へ再生を!」という訴えを行っています。推進した市長を破って当選した現市長にたいし、問題点の検証を確実に行うよう、強く要請しています。


なぜこんな場所に市有地が?

 平成4(1992)年、当時の市長が、周辺地区住民の共有地を開発から自然を守るために、土地開発公社(以後公社)に50億円で先行取得させ、その土地を飯能市が買い戻し、あけぼの子供の森公園や阿須運動公園などを建設しました。しかし、阿須山中の土地約17haは、利用価値を見いだせず「塩漬け地」として放置されてきました。


なぜこんな場所に市有地が?

 平成24(2012)年、当時の市長が「公社の財政健全化計画」として、県から10年で総額20億円を借り受け、阿須山中の土地を含めた公社の負債を買い戻しています(返済は市の一般会計から支出)。
 当時、市議会では「目的をはっきりすべきだ」などの意見がありましたが、取得目的を「自然公園」として買い戻したあと詳細を決定、と答弁していました。


なぜこんな場所に市有地が?

 平成25年に当選した前市長は公約に「日本一のメガソーラー」を掲げ、翌年の議会でN議員が「阿須山中にメガソーラー」と提案。市は、「自然公園」と北向き斜面を理由に否定したが、平成27年、市長、県議、議長、N議員がそろって、少年サッカー教室を運営する「飯能インターナショナル・スポーツアカデミー設立総会」に出席しました。平成29年、市長は「自然公園にとらわれることなく山林の利活用を進める」とし、「民間事業者提案制度」を創立。そこで「阿須山中土地有効活用事業」を公募し、アカデミーが提案した「サッカー場とメガソーラー事業」が平成30年に選定されました。平成31年には、アカデミーと土地賃貸借契約を年間120万円で締結しました。すべての設計・工事は大手ハウスメーカーの子会社「大和リース」が行っています。
 事業内容は、メガソーラー建設で義務付けられた「調整池」の底にサッカー場を造り、運営資金を売電収入で賄うというものでした。


開発申請と認可に多くの疑惑が

 サッカー場の面積を小さく申請し、市が行なう都市計画法の事前審査で法逃れを行いました。しかし、林地開発には正規の面積を申請し、半年に及ぶ審査のあと、森林審議会で異例の19項目の付帯事項と「通知」を事業者と飯能市に提出。令和2年秋に認可が下り、絶滅危惧種のコクランの移植作業もそこそこに、強引に工事を開始しました。開発面積17haを伐採、山を削って谷を埋め、あの素晴らしい混交林森は跡形もなく工事1年で平原と変わってしまいました。


メガソーラー開発に絡む疑獄事件の可能性

 市民の財産である市有林の開発を市民への詳細説明や議会の議決を得ずに市長案件として、共産党の議員を除き、ボス議員が開発業者と組んで賛成議員、市役所を巻き込み進めた特異な開発行為です。サッカー場建設は隠れ蓑で、ボス議員の指示により、大和リースが低額の借地料でメガソーラーを運営する、官民一体の大掛かりな利権が絡む疑獄事件です。また、飯能市議会での共産党議員などの疑獄追及に対して、市と推進議員が議会という公の場で法律違反の個人攻撃を行なうなど常軌を逸した議会運営が行われました。


飯能市政に大きな変化が

 昨年の市議選で、会の代表である長谷川順子さんが高位で初当選しました。共産党は2位を含め3人全員が当選です。夏の市長選挙は、阿須山中問題の検証を訴えた新人が現市長に大差をつけて初当選しました。
(2022年1月)










会が発足したとき、みんなで現地視察をした。開発前はすべてこんな混交林で覆われていた



稜線上にあった鉄塔。伐採前は、すぐ下まで行かないと鉄塔は見えなかった



2年前に初めて開発予定地を散策したときの写真。鉄塔の真下である



稜線から北側を見たもの。樹林越しに谷が唐沢川に落ちていたが、
すべて埋められ、平らになってしまった



飯能在住の画家、桃仙さんが描いた近未来の阿須山中。
広葉樹を市民の手で植樹し、新たな憩いの場所をつくろうというもの







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