自然公園内の風車計画に批判相次ぐ

〜酒田市で風力発電市民集会〜







 「よ〜く考えてみよう! 自然公園内風力発電計画は是か非か」──。こう銘打った市民集会が2017年9月10日、山形県酒田市で開かれました。主催は「クロマツ林文化創造ネットワーク」です。45人が参加しました。
 風力発電設備の建設予定地は酒田市十里塚地区の海岸です。事業者は山形県(企業局)と酒田市です。県と市が大型風車を3基ずつ、計6基建設します。出力の合計は1万3800kW(2300kW×6基)です。
 ここは庄内海浜県立自然公園の一部です。砂丘と海岸林が南北33キロにわたって連なっています。そんな貴重な場所に県と市が大型風車を6基も建設するのです。しかも、建設予定地から集落までの距離は500メートルしかありません。
 この場所には、2001年と2010年に、民間事業者が同じような大型風車建設を計画しました。山形県はこの事業計画を容認しませんでした。容認しなかった理由はこうです。「海岸 線を分断し、海側や砂丘地からの重要な眺望の対象に著しい支障を及ぼす」「微妙な生態系のバランスの上に成り立つ『砂丘誕生とクロマツ林』の景観の維持を図るうえで重大な支障を及ぼすおそれがある」。
 ところが、その県と市が同じような大型風車建設を計画です。県と市が建設するものであれば景観や生態系に重大な影響を及ぼしてもいい、という論理です。
 この計画にたいし、市民や学者・研究者などから疑問や批判の声が高まっています。そこで市民集会が開かれました。「風力発電計画は市民に十分知らされているか」「市民の意志は反映されているか」「場所は適当か」──。このようなことを市民自らが検証しようというものです。


疑問の声が続出

 集会では、風力発電計画の概要や経過、疑問点、県議会議員と酒田市議会議員へのアンケート調査結果などが報告されたあと、2時間にわたって意見交換が活発におこなわれました。意見表明は1回3分以内です。計画に疑問を呈する声が続出しました。

 こんな意見がだされました。
  • 風車は、建てていい場所とそうでない場所がある。事業予定地は県立自然公園である。国の鳥獣保護区にも指定されている。絶滅危惧種コアジサシの繁殖地でもある。山形県は、コアジサシを絶滅危惧TA類「CR」に指定している。つまり、絶滅の危険性がきわめて高い種である。そのため、日本野鳥の会山形県支部は計画に反対している。再生可能エネルギーの導入には反対しない。しかし、自然を守るべき場所に風力発電施設を建てるのは問題だ。行政は本来、絶滅危惧種などを保護すべき立場にある。だがこの計画は、絶滅危惧種はいなくなってもよいと言わんばかりである。とても納得できない。違う場所に建ててほしい。

  • わたしは山形や東北の自然保護運動に長くかかわってきた。自然保護運動の究極の目的は、将来そこで生きていく人たちのために自然を残すことである。再生可能エネルギー計画についてもきちんとモノを言うべきだと思い、この問題にとりくんでいる。どのようなかたちでおりあっていくかが大切だ。「原子力ムラ」といわれる人たちは、まわりの意見を聞かないで原発建設を進めてきた。再生可能エネルギーの問題はそのような轍(てつ)を踏んではならない。

  • 超低周波音による健康被害は個人差が大きい。体調が悪くなる人と平気な人がいる。最大の問題は、なぜ影響を受ける人と受けない人がいるのかがわからないことだ。そのため、国(環境省)は「耳に聞こえない音の被害はないはずだ。あるとすれば気のせいであり心理的なものだ」と主張している。しかし、そこから離れて生活すると体調がよくなり、もどるとまた体調が悪くなるということが証明されている。

  • わたしはかつて、超低周波音でたいへんな目にあった。近所の製造工場から発生する超低周波音によって眠れないとか、頭痛がするなどの症状がでた。酒田市に訴えたが、市はなにもしてくれなかった。そこで、自分で会社に対策を申し入れた。発生源を撤去してもらったら体調がもどった。超低周波音は恐ろしい。いつわが身にふりかかわるかわからない。

  • 欧州では海岸線から数百メートルの範囲には構造物を建てないと聞いている。知恵をだしあい、みんなが納得できる方法、結論がでることを期待している。

  • 問題の風車建設予定地を昨年見学した。「なぜこんなところに大型風車を建設するのか」とたいへん驚いた。そこで、きょうの集会に千葉から参加した。風力発電は景観破壊と健康被害が各地で問題になっている。風車はどこに設置するかが最大の問題である。わたしは伊豆半島の風車群も見学した。東伊豆町では、大型風車の超低周波音によって周辺住民が健康被害に悩まされている。千葉の南房総市では、住民の猛反対によって大型風車計画が中止になった。

  • きょうの集会で活発な意見がだされたことにびっくりした。この風力発電計画について酒田市民はあまり関心をもってこなかった。酒田市民の悪いクセは、他所(よそ)の人から指摘されてはじめて「なるほど」と考えることである。たとえば「おしん」(NHK連続テレビ小説)や「おくりびと」(映画)を誘致したのは酒田市民ではない。他所からの働きかけだった。「おしん」は八十数カ国で放送されている。「おくりびと」については、滝田洋二郎監督がこう言っておられる。「酒田は日本の原風景のあるところだ。だから酒田をロケ地に選んだ」と。十里塚の風車建設問題をきっかけにし、酒田市民は悪いクセをなおさなければならない。市民の間では、この計画に対する議論が共有されていない。それをあらためなければならない。

  • 今回の計画を許してしまえば、庄内海岸の大半の場所に大型風車が建設されることになる。ここが正念場である。


 このように批判や疑問の意見が相次ぐ一方で、計画に賛成する意見もだされました。こんな意見です。

  • いま地球温暖化が大きな問題になっている。温暖化を防ぐうえで風力発電は有効な再生可能エネルギーである。地形の不安定な砂草地に建てるのではなく、地盤の安定しているクロマツ林の中に建てるべきだ。隣の遊佐町ではクロマツ林に風車が建てられている。

  • 地元の十里塚の住民がこの計画をどう考えているのかわからないが、地域にもたらす経済効果を考えたほうがよい。




■風力発電市民集会の主催者あいさつ(要旨)

  市民による徹底議論が必要


クロマツ林文化創造ネットワーク 代表 森 繁哉さん


 わたしは大学で民俗学・文化人類学という学問をおさめてきた。研究の重要なフィールドワークの場所は庄内地方である。とくに庄内平野からは、たいへん多くの教訓や、学習のテーマ、文化の蓄積の富をいただいだ。庄内平野は、山、海、川、里のたいへん豊かな風土条件をもって人々の生活を守ってきた。そういうことに気づかされた。
 わたしは、大学の授業の一環としてドイツでも勉強した。ドイツでは風力発電も見学させていただいた。そこの風力発電をめぐっては、なぜその場所でなければならないのかということについて丹念な議論がされた。市民が議論をつづけた。役所がそれに耳をかたむけて計画に結びつき、その場所が決定された。
 ある日新聞を読んでいたら、「庄内海岸のクロマツ林をたたえる会」の高橋寿昭理事長のインタビューが載っていた。庄内海岸に風車の建設が計画され、クロマツ林への影響がたいへん心配される、という話であった。
 それを読んだとき、疑問を感じた。なぜ日本の行政は地元の人たちの声に耳を傾けないのか、ということである。そこで高橋さんにお会いし、風車建設計画の内容や経過の全貌、行政の手法を聞かせていただいた。
 話を聞いてたいへん残念に思った。それは、庄内海岸があるがゆえに庄内文化が生みだされてきたからである。庄内海岸は、そこに生きてきた人々の生活を保障してきた。にもかかわらず、その庄内海岸に風力発電設備が無秩序に計画された。そのように疑われている。しかも、多くの市民の意見を尊重することなく計画されている。こういうことにたいへん驚いた。
 庄内を愛し、庄内の文化から多大な恩恵をうけている人がたくさんいる。その人たちがこの風車建設にたいへんな懸念をもっている。
 そこで、市民集会を企画させていただいた。集会の目的は、風車建設計画を市民のかたがたが共有し、議論をつくすことである。それを、望ましい再生可能エネルギーや、さまざまな環境政策、地域づくり、観光などの施策に結びつけなければいけない。その材料をみなさんと共有したい。庄内文化を未来に伝える。庄内のたいへん豊かな知恵と技術と生活のありかたを子どもたちに伝えていく。そのために盛んなご討議をいただきたい。




■風力発電市民集会の主催者あいさつ(要旨)

  「原子力ムラ」に類似する構造で
  再生可能エネルギー開発を進めてはいけない

酒田市環境審議会委員 金子 博さん

 この風力発電計画のひとつの問題点は山形県のエネルギー戦略である。原発問題の原点には、原子力発電を推進してきた社会的な構造、いわゆる「原子力ムラ」があった。それに類似する構造で再生可能エネルギーの開発をおしすすめてはいけない。
 二つ目は、山形県のエネルギー戦略は使用電力の削減目標を掲げたうえで、あらためて開発目標を提示すべきである。つまり、原子力政策の反省のうえにたつということである。
 三つ目は、風力発電については、風力発電の先進国の例にならい、まずは設置可能な場所を明らかにしていくことが必要である。ゾーニングという手法を県のエネルギー戦略にとりいれるべきである。
 酒田市十里塚の風力発電事業計画をめぐるこれまでの経過をたどれば、事業者の県と酒田市は、地域住民や専門家などとのコミュニケーションから逃避しつづけている。説明会でも、質問内容をはぐらかすかのような回答、いわゆる論理の転換やすりかえが多くみられる。この市民集会にも県は欠席した。
 一方、酒田市は、山形県エネルギー戦略の実現に貢献していくとともに、この風力発電事業によって得られる利益を市民に広く還元する、としている。だが、酒田市自身のエネルギーにかかわる基本計画や戦略、構想などはいまだに策定していない。風力発電計画の事業化の根拠は不明確なままになっている。
 2001年と2010年、民間事業者が今回とおなじような風力発電設備の建設を本事業予定地に計画した。その計画を山形県は容認しなかった。ところが、容認しなかった事業にかかわる評価は、今回の環境アセス準備書にはもりこまれていない。
 今回の環境アセス準備書では、評価の記述を乱暴にはぶいている。また、論理の転換やすりかえをおこなって環境への影響の少なさを強調する記述に終始している。そのような項目が多くある。
 最後は酒田市の環境審議会と景観審議会についてである。自主アセス準備書にたいする山形県知事からの酒田市長への意見照会にたいし、市長は審議会の特定の意見を反映しない回答書を提出している。これについては、わたしが市長に質問した。それにたいする市長の回答を本日の配布資料に掲載させていただいた。市長の回答書には、地域住民とのコミュニケーションは大事なので、酒田市として適切に地域住民とコミュニケーションを図っていく、と書かれている。しかし、意見交換の場として開いたきょうの市民集会に、市からはだれも参加していない。










風力発電市民集会の配布資料より



風力発電計画に疑問の声が噴出した市民集会=2017年9月10日、酒田市



酒田市十里塚の風力発電建設予定地を見学する「第37回東北自然保護の集い」の参加者。
後方はクロマツ林=2016年10月23日



「クロマツ林文化創造ネットワーク」代表の森繁哉さん







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