多くの市民連携で風車建設「白紙撤回」

─出羽三山の麓─

出羽三山の自然を守る会 佐久間憲生






 修験道の霊場として知られる出羽三山(羽黒山、月山、湯殿山)の山麓に、突如風力発電の計画が出てきた。8月上旬から1ヶ月間、風力発電事業「計画段階環境配慮書」の縦覧が行われると市の広報に掲載されたのだ。事業主体は(株)前田建設工業(本社東京)で、月山山麓に26基、羽黒山山麓に計14基、合計40基で高さ180mの風車で発電所出力は12万8000kW、総面積は2296haの計画である。


豪雪地帯のブナ原生林と猛禽類の営巣地

 月山山麓の予定地は標高400m〜930mの豪雪地帯、原生的なブナ林の植生からブナ林の二次林が広がる地帯だ。当会は会設立の1970年から国有林におけるブナ林の無謀な伐採中止を求めてきた。その結果、当地のような豪雪地帯におけるブナ林伐採とその後の植林は、標高でおおよそ500mが限界と経験則で確認することが出来た。林野当局も豪雪地帯の高標高地ではブナ林伐採は1985年頃から実施していない。ブナ林は生物多様性の保全はもちろん水源涵養機能が高く、治山治水、土砂流失保全に大きな役目を果たしている。当地のような急峻でブナ林伐採後の森林回復困難な地帯では土砂災害や水害の発生が懸念され、ブナ林の伐採を伴う開発計画は実施すべきでない。
 羽黒山山麓の予定地は標高200m前後で杉などの植林地が多く、鶴岡市と一部庄内町に拡がる。猛禽類の営巣地が多くあり、しかも計画は市の風力発電建設ガイドラインの600mよりも民家に近く、低周波に伴う問題発生が予想される。
 加えて両地区は出羽三山の神域であり、風車は景観上異質な存在で受け入れることが出来ない。以上の理由で当会は反対運動を始めた。
 当会の反対運動と同時に、山形大学名誉教授が自身のHPで「神棚に扇風機」というキャッチフレーズで配慮書から得られる情報を元に、羽黒山の入り口に立つ大鳥居の上に風車の絵を掲載したり、地元羽黒山伏で宿坊を営む方がフェイスブックでこの計画を発信したり、いろいろな方々がそれぞれ行動を始めた。


迅速な反対運動

 出羽三山は1400年もの間、そして今もなお羽黒修験道を行う山伏たちが宿坊を営み、2016年に日本遺産にも認定されている。そんなことから、地元住民はもちろん全国から「祈りの山」として心のよりどころ、山岳信仰の聖地に風車はいらない、と反対の声が上がった。
 その結果、縦覧中の8月末、多くの団体・個人が呼びかけ人となり「反対する会」を立ち上げ、署名活動を始めた。
 反対する会は羽黒山伏、宿坊組合、羽黒町観光協会、山小屋主人、市会議員、出羽三山精進料理プロジェクト代表、大学教師、出羽三山の自然を守る会等が結集し、事務局を鶴岡市羽黒町観光協会に置いた。この反対運動が始まると同時に、関係する鶴岡市長、庄内町長、県知事から建設に対して「遺憾の意」を示す発言が出てきた。
 そんな状況の中で、(株)前田建設工業は直前まで地元説明会を開催していたにもかかわらず9月9日、同社ホームページで計画の白紙撤回を公表した。
 まさに多様な市民の結束が白紙撤回に追い込んだものと思われるが、神域としての「景観」が大きなポイントになったものと思われる。
 しかし、月山山麓の今回の計画地と同じ場所で既に風況調査を実施している企業(ユーラスエナジーホールディングス)があり、引き続き気を引き締めて行かなければならない。
 ちなみに、半月たった9月15日現在で署名は全国も含め1万3千筆余集まった。


鶴岡市長 ガイドラインの改定進める

 反対する会は10月14日、鶴岡市長に面談し、3項目からなる要望書を提出した。
 一つは今回の風力発電計画が提出された経緯を明らかにして欲しい、二つは鶴岡市における風力発電等について地元自治体が規制できるようガイドラインの見直しを行って欲しい、三つは同様の構想を知った場合は早急に市民に情報公開して欲しい、である。
 皆川市長は、2017年度に策定したガイドラインでは、生活や自然環境保全の観点から事業者が遵守すべき基準などは設けているが「文化」への配慮などは触れておらず、今回の問題を受け、風力発電の設置に関するガイドラインを年内中に改定する事を明らかにした。
 改訂では順守基準の追加、制限区域を示すこととしている。
 当会は席上、ガイドラインの改定にあたり既存のガイドラインでは建設地を住民の生活の場から600m離すことにしているがこれでは近すぎる。低周波による体調の異常は個人差もあるといわれており、何メートルあれば良いという知見は持っていないが、今後全国の事例調査を行うのであればその点も考慮して情報収集し、改訂して欲しい旨要望した。
 また、月山山麓で既に風況調査を実施している企業(ユーラスエナジーホールディングス)の取り組みについての質問に対しては「中止するよう申し入れを行う」という明言を得た。
 法的には拘束力はないものの、地元首長の考えであり重いものがある。
 市長は東北公益大学客員教授時代は、風力発電推進の提言を行っており、今回の風力発電に対する前向きな言動については半信半疑の感は拭えない。
 しかし現時点では評価しつつ、今後の取り組みに注視していく必要がある。
(2020年10月)








「出羽三山の風車建設に反対する会」が風車完成時を
想定して作成したイメージ図。大鳥居の後ろは羽黒山






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