野生動物の保護と自然再生エネルギー開発を考える
〜第37回東北自然保護の集い〜
「第37回東北自然保護の集い」が2016年10月22、23日、山形県庄内町の月の沢温泉「北月山荘(きたがっさんそう)」で開かれました。
この集いは、東北6県で自然保護活動をつづけているさまざまな団体が県を超えたつながりを強めるため、各県持ち回りで毎年開いているものです。1980年にはじまり、今年は37回目です。主催は、ゆるやかなネットワークである東北自然保護団体連絡協議会です。
今回のテーマは「野生動物の保護と自然再生エネルギー開発を考える」です。65人が参加しました。
開会あいさつをした「出羽三山の自然を守る会」の太田道徳会長はこう述べました。
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「ここに来る道々、『クマの出没に注意』の看板がたくさん立っていた。このようなところにもクマが出没するということは、山の自然がなんらかのかたちで損なわれている証拠だと思う。この問題をきょうの会合で討議したい」
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「たいへん歴史のある『東北自然保護の集い』を庄内町で開催していただいた。東北各地からこの地においでいただいた皆様を心から歓迎したい。この地は80年という長い年(とし)月(つき)を水害とたたかってきた。地元の人たちはそうしたものを通してやっとここに定住することができた。その地に住む人たちが自然保護と開発の問題をどのように折り合いをつけて生きていけるかも考えなければならないのではないかと思う」
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「人間の活動域に近いエリアに生息しているクマの行動時間帯は、主に薄暗い早朝と夕方である。人間は時間で行動するので真っ暗でも朝仕事にでかける。そのため、人間活動域からクマが引き返す前にクマと遭遇してしまう。真面目な年配の方が事故にあうという悲しいパターンである」
山形大学農学部教授の野堀嘉裕さんは「木質バイオマスエネルギーの利用と課題」と題して講演しました。
木質バイオマスエネルギーというのは、森林整備のさいに発生する間伐材などを利用した熱エネルギーです。野堀さんは、間伐材などの未利用材を有効利用することの重要性を強調し、「熱エネルギーを考えた場合、木質バイオマス資源の供給にはまったく問題ない」「木質ペレットの利用拡大は雇用創出の可能性がある」「木質チップの利用は価格競争に強い」と述べました。
課題として、「収穫を確保するためには皆伐・再造林が必要不可欠」「資源量を把握することが必要」「収穫量は成長量の総量を超えないことが大事」「間伐だけでなく主伐も必要」「バイオマス発電の許容範囲を知ることが必要」「ボイラーは日本中に失敗例がたくさんあるので注意したほうがいい」と話しました。
2人の講演のほかに現地報告がありました。秋田におけるツキノワグマの生態、岩手における野生動物保護のとりくみ、山形県と酒田市における風力発電の問題、福島における再生可能エネルギーの現状、最上小国川ダム建設差し止め住民訴訟、放射能汚染汚泥の仮置き場中止のとりくみなどです。2日目は、講演や現地報告をめぐって活発な議論が交わされました。
最後は集会アピールの採択です。アピールにはこんなことが盛りこまれました。
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「東北にあるすべての原発や原子力施設を廃止し、放射性廃棄物処分場を設置しないことと、東京電力の責任ある解決策を求める」
「再生可能エネルギーは原発をなくすために重要なエネルギーであるが、事業の進め方にはさまざまな問題が指摘されている。原発をなくす方針があいまいな中での再生可能エネルギー開発は、自然環境に与える影響を慎重に考慮しておこなうべきである」
「ツキノワグマ、イノシシ、ニホンジカなど野生動物の人間世界に対する軋轢(あつれき)が非常に増えている。『被害を及ぼす野生動物』ととらえるのではなく、これらの野生動物が東北にもともと生息していたことをふまえて、捕殺による駆除だけでなく、人間との共存対策を図るべきである」。
山形県庄内町の月の沢温泉「北月山荘」で開かれた「第37回東北自然保護の集い」
集会の2日目。講演や現地報告をめぐって活発に議論が交わされた
交流を深めあった懇親会
集会後の現地研修では日本初の風力発電を見学した=10月23日、山形県庄内町
酒田市十里塚の風力発電建設予定地も見学
野生生物研究家の鵜野レイナさん
★関連ページ
- 秋田県におけるツキノワグマの実態(奥村清明さん)
- 貴重なクロマツ林を守るために〜山形県と酒田市による風力発電建設計画の問題点〜(高橋寿昭さん)
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