「第37回東北自然保護の集い」の現地報告(要旨)

秋田県におけるツキノワグマの実態

秋田県自然保護団体連合 奥村清明さん








クマの捕殺数が断トツ

 日本ではいま、クマがかなり出没して殺されている。そのなかで秋田県は断トツに多い。

 秋田県では今年、10月20日までに450頭のクマが殺された。8月20日現在の統計によると、秋田では320頭殺されている。次に多いのは北海道の230頭である。北海道の面積は秋田県の7倍もあるのに、秋田よりも少ない。ほかは岩手県213頭、群馬県202頭、山形県198頭となっている。

 秋田県では、5月21日からほぼ3週間にわたり、十和田湖の南東にある熊取平や田代平において連続して4人がタケノコ採りの最中にクマに殺された。それもクマに食われたという衝撃的な事件であった。

 この問題がずっと尾を引き、秋田県民はクマに対して非常にナーバスになっている。これまではクマの姿をちょっとみても警察に連絡しなかった人が、「クマがでたっ!」と言って警察に連絡する。そして猟師がとんでいって殺したのが450頭である。10月20日現在で450頭だから、今年は500頭を超えるのではないか、とたいへん危惧している。

 県の調査では、今年4月1日現在で1015頭のクマが秋田県にいるという。1015頭のうち、今年だけで500頭も殺されたらどうなるのか。このままいけばたいへんなことになると思う。


山の崩壊がいちばん大きい

 日本の山はどれほど崩壊しているか。クマにとってはたいへん棲みにくい状況になっている。

 林野庁が1953年からはじめた「ブナ退治」という政策は完全なミスだった。それがいちばん大きいと思う。私はヘリコプターに乗って秋田県の上空を飛んだことがある。クマが棲めるようなブナ林はなくなってしまった。

 私たちはよく、自然保護活動のなかで「森は海の恋人」という言葉を使った。森から海へ栄養塩が流れ込む。逆に、海に流れ込んだ栄養塩が山へ帰る。「海は森の恋人」でもある。海に流れ込んだ栄養塩をサケや鳥などの動物たちが山に上げる。そのように栄養塩がまわって山は豊かだった。

 ところが、どこの川でもダムや堰堤がつくられた。その結果、サケは海ぎわで殺された。山には栄養塩がなくなった。北海道の山もそうだが、たしかに葉っぱは茂るし、花は咲く。けれども実がならない。だからクマは山に棲めなくなったのではないか。私はそのように考えている。いろいろなマイナスの要素が重なって山そのものが非常に貧しくなっている。


人間の力の急減も原因

 最近の秋田県は人間の力(マンパワー)が急減している。

 2005年、「第26回東北自然保護の集い」を秋田県の森吉山のふもとで開いた。森吉山がある町は阿仁町(あにまち=現在の北秋田市阿仁)といって、猟師マタギの発祥地である。

 阿仁町の人口がいちばん多かったのは1960年だった。それ以降、町の人口はどんどん減りつづけた。いまの人口は1960年当時の27%に減少している。

 そういうものがいろいろ重なって、秋田県は元気がなくなった。しかも若い人たちが激減した。そのすきをねらって、山の動物たちが人里におりてきているのではないか。


人間側の連係プレーが不足

 くりかえすが、秋田県では今年、10月20日現在でクマが450頭も殺された。来年も同じようになったら、秋田県にクマはいなくなる。冗談ではない。そういう状況をつくったのはすべて人間である。このへんをお互いにもう少し反省すべきだと思う。

 秋田県では、今年1〜8月にクマによる傷害事件が17件発生している。それらをみると、考えられないようなシチュエーションでクマにやられている。新聞配達中に後ろからクマに襲われるとか、自宅から200mぐらいの畑で仕事をしていたら後ろから襲われた、などである。

 4人がクマに殺された熊取平と田代平の現場を私も見にいった。5月21日に殺された人は、秋田市を午前2時30分にでて、150キロも車をとばしてタケノコを採りにきてクマに食われた。

 そのような傷害事件があれば、最初に警察が来る。警察が死体を見分(けんぶん)したが、死体があまりにひどい状態だったので、警察はだれにも言わなかった。もしその段階で行政や猟友会を集めて死体を見せるとか、ただちに入山禁止にするとか、そういう措置をとっていれば、2番目以降の犠牲は防ぐことができたのではないか、と感じた。2番目の犠牲者は翌日に殺されたからだ。そのように行政側の不統一がみられた。

 現場は国有林である。これは県の課長から聞いた話だが、営林署がすぐに入山禁止にすれば、次の日にタケノコ採りに来た人は国有林に入ることができなかった。しかし、営林署の職員は「国有林はだれでも入れるようになっているからかまわない」と言って問題にしなかったそうである。そのために対策が遅れてしまった。

 3週間で4人がクマに食い殺されたということがあって、日本ツキノワグマ研究所(広島県廿日市市)の米田(まいた)一彦理事長も秋田に6回ぐらい調査にみえた。米田さんが強調していたのは、人間の側の連係プレーの不足である。

 日本クマネットワークが東京で会議を開いたときも、人間の側の問題がいちばんとりあげられていた。


クマが棲める山をどうキープするか

 秋田県全体が非常にピリピリした感じになっている。「クマなんていらないじゃないか」「なにか役にたっているのか」ということを真面目な人が言う。

 そういうことをみんなで話しあうことが必要だ。そうしないと、「クマはいらない」ということになるかもしれない。その次は「あれもいらない、これもいらない」となる。相模原市の障害者施設でおきた事件のように「障害者はいらない」という考え方にもつながる。

 クマをいかに守るか。クマが棲めるような山をどういうふうにキープしていくか。これはたいへん大事な問題だと思う。
(文責・中山)




奥村清明さん






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