野生動物との共生を考える
〜北秋田市で第38回東北自然保護の集い〜
「第38回東北自然保護の集い」が9月2、3日、北秋田市の打当(うっとう)温泉マタギの湯で開かれました。この集いは、東北自然保護団体連絡協議会が各県の持ち回りで毎年開いているものです。東北6県の自然保護団体のメンバーなど70人が参加しました。
今年のテーマは「野生動物との共生を考える」です。くまくま園(北秋田市阿仁の小松武志園長が「ツキノワグマの現状」と題して講演しました。小松さんは、秋田県におけるツキノワグマの生息状況や、クマによる被害、被害防除の事例などをくわしく話しました。秋田県におけるクマの推定生息数は1982〜1985年度が2251頭、2012〜2016年度が1025頭。総捕獲数は1982〜1985年度が227頭(捕獲率10.1%)、2012〜2016年度が253頭(同24.7%)です。クマの生息区域が広がって里に定着している可能性がある、とのことです。その背景には「人間の生活様式やクマとつきあいかたの変化がある」とし、対策のひとつとして「人間は怖いということをクマに認識させることが必要」と述べました。
一般社団法人日本オオカミ協会の大槻国彦さん(「NPO法人熊野の森を作る会」事務局長)は「シカとオオカミの作る生態系」と題して講演しました。協会は、「天敵のオオカミがいなくなったのでシカが大増殖し、食べられる植物を食べつくす状態が日本のあちこちで拡大している」とし、国外からのオオカミ再導入による生態系の維持を唱えています。大槻さんは、米国イエローストーン国立公園でオオカミを再導入したとりくみを紹介し、増えつづけるシカを減らし、生態系を回復するうえでオオカミ再導入は効果がある、と話しました。
講演のあとは、各地で起きている問題や運動の報告です。最上小国川のダム建設反対訴訟や宮城県の放射性指定廃棄物問題などが報告されました。全国自然保護連合事務局の中山敏則も「全国自然保護連合の活動と各地の運動の教訓」を報告しました。
自由討議では、オオカミ再導入の是非や白神山地の立入禁止などについて意見が交わされました。最後はアピールの採択です。
第38回東北自然保護の集い
ア ピ ー ル
9月2日から3日にかけて、北秋田市阿仁(あに)町のマタギの里で第38回東北自然保護の集いを開きました。今年のテーマは「野生動物との共生を考える」としました。
日本人は縄文の昔から野生動物と共生し、生存するあらゆる動植物に生かされてきました。しかし明治維新以来、日本社会は急変し、とくに1945年以後はまったく別の国になったといわれるほどです。人口の都市への爆発的集中、第一次産業切り捨て政策による地方の過疎化の激進、食生活は「米と魚」から「パンと肉」へ変わったという統計も出ました。世界でも稀な現象です。日本の山や森、海のかつての豊かさは、まさに逝きし世の面影と化しつつあります。
ダムの乱造のため水循環を断たれた河川、拡大造林政策やリゾートブームなどで乱伐されたブナ林等の奥山、森林生態系の頂点捕食者オオカミの人間による絶滅などのツケが一挙に顕在化してきています。
ニホンジカやイノシシの激増は、山や森の崩壊を加速させ、農林業を放棄させる原因ともなっています。ツキノワグマの人間の生活圏への日常的な出没は、正常な社会生活とは両立できません。自然は、人間はもちろん、生きとし生けるものすべてが等しく共生できる唯一の空間です。
2日間の話し合いを通じて東北にも数多くの自然保護問題があることを学び、かつ野生動物について、我々がいかに知らないことが多いか教えられました。これらの問題の解決には人間の側がこれまでの施策を反省し、正しい施策へ変更することが不可欠だと痛感しました。「天国などいらない、故郷がほしい」は、ロシアの詩人の言葉ですが、人間も野生動物も安心して生活できる故郷の再生こそ急務だと思います。
我々は次のことをアピールします。
- 野生動物と人間の共生には、豊かな生態系が必要です。彼らの生活空間である健全な山や森を再生しましょう。
- ニホンジカやイノシシなどの激増を抑えるためには、人間の力はもちろんですが、自然界の持つ力こそより重要です。絶滅させてしまったオオカミの復活も選択肢の一つとして論議を深めましょう。
- 日本の河川にダムはもういりません。ダムのため生きた水の流れていない河川をなくしましょう。
- 電力の7割を原発に依存してきたフランスも脱原発に動きはじめました。日本は即脱原発に進むべきです。帰りたくても帰れない故郷を子供たちに残すことはできません。
第38回東北自然保護の集い・マタギの里集会 参加者一同
北秋田市の打当温泉マタギの湯で開かれた第38回東北自然保護の集い
懇親会で交流を深めあう参加者=9月2日夜、打当温泉マタギの湯で
★関連ページ
- 野生動物の保護と自然再生エネルギー開発を考える〜第37回東北自然保護の集い〜(2016/10/22-23)
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