破綻している核燃料サイクルにとどめを
特定非営利活動法人 日本消費者連盟 富山洋子
2010年9月10日、日本原燃(株)川井吉彦社長は、六ヶ所村の使用済み核燃料再処理工場について、10月に予定していた完工(試運転終了)を2年延期し、その時期は2012年10月になる旨、三村申吾森県知事に報告しました。この延期幅は18回目となる計画延期の中では最長です。
六ヶ所再処理工場は、2006年3月31日に試運転(アクティブ試験)を強行。しかし、その後、トラブルが続き、その最終段階のガラス固化体製造試験においては、溶融炉内からガラス溶液を抜き出す作業の不調や炉内の耐火レンガが欠落するというトラブルで、08年12月から長期中断していました。
ガラス固化は中止していましたが、この夏、7月30日には、高レベル放射性廃液を濃縮する装置から漏洩がありました。これまでも3度、廃液漏洩を起こしていますが、今回の漏れでは、密閉された小部屋(セル)の外にも放射性物質がでて作業員に付着したと発表されています。
8月3日には、ウラン濃縮機器を製造する工場で、ぼやが発生。同16日には、原子力安全・保安院は、再処理工場と高レベル放射性廃棄物貯蔵施設の排気筒に設置した空気量を計測する流量計の値が基準範囲を超えていたにも関わらず、数値が適切かどうかを評価していなかったとして、日本原燃に対し「保安規程違反」を指摘しました。因みに保安規程違反は、この件ばかりではありません。
原子力安全・保安院は、2009年3月の保安検査において、品質保証に不備が見つかったとして、5件の保安規程違反を指摘していました。これを受けて日本原燃が出した報告書は、同社の組織的欠陥を一層明らかにし、六ヶ所再処理工場を運転する技量もないことを露呈しました。その後も止まらぬトラブルは、日本原燃の品質保証体制が全くなっていないことを鮮明にしています。さらにガラス溶融炉全体にひびが入った可能性まで指摘され、トラブルの過程では、労働者被爆が相次いでいます。
にも関わらず原子力安全・保安院は、日本原燃が出した「改善策」を容認し、アクティブ試験の中止を打ち出しませんでした。
さて、この6月に、耐火レンガをようやく回収した日本原燃は、これまで使用してきた溶融炉(A系統)とは別の溶融炉(B系統)で、茨城県・東海村の実規模試験炉を参考にしながらB系統で試験を再開する方針を決め、7月に国へ運転改善報告書を提出しています。しかし、現段階では試験再開の目途は立っていません。東海村の試験炉は模擬廃液を使っている上に、六ヶ所のものとは仕様が違うので、参考にはならないでしょう。
六ヶ所再処理工場は、フランスの技術を多用していますが、ガラス溶融炉については、1回にフランスの20倍の量を処理できるという効率を狙った独自方式を採用。「想定以上に温度管理が難しかった」(原燃技術者)のは当然とも言えます。
当初1997年と予定していた六ヶ所再処理工場の稼働は大幅に遅れ、建設費は当初計画の約3倍の2兆1930億円に膨らんでいますが、すでに3兆円に及んでいるとの指摘もあります。
現在、日本原燃の資本金の2000億円は、原発をもたない沖縄電力以外の9電力と日本原子力発電の電力10社が約75%、残りを重電メーカーなど80社が出資。電力会社は債務保証のほか再処理料金を累計で約8000億円前払いするなど、日本原燃の経営を支えてきました。さらに、電力10社は、再処理工場稼働延期に伴い3000億〜4000億円の増資を引き受けることを検討していますが、それらの資金は、私たちの電気料金で賄われるわけです。
2009年度は、六ヶ所再処理工場の操業はほぼ停止していたので、放射能の環境への放出量は少なくなっていますが、アクテイブ試験が活発になされていた2008年度の特に再処理工場に近接している地域の調査報告((財)環境科学技術研究所・平成20年度放出放射能環境分析調査報告書)では、トリチウム(半減期12.33年)や放射性ヨウ素(半減期1570万年)による環境汚染が確実に起きていることが示されています。
「再処理止めたい!首都圏市民の集い」では、ウラン試験開始以降、毎月第4水曜日、18時30分より、経済産業省前で再処理中止を呼びかけながら、「止めよう再処理共同行動ニュース」を道行く人に配布。経済産業省に対しては、参加団体・個人が用意した申し入れ書を夫々読み上げ、担当官に手渡してきています。また、当日は、国会議員全員に、前述のニュースレターを配ってきています。
ともにいっそう運動を盛り上げて、危険な上に莫大な費用がかかる再処理工場を止めさせて、破綻している核燃料サイクルにとどめを刺していこうではありませんか。
(2010年9月)
★関連ページ
- 南アルプス掘削に衝撃〜リニア実験線見学ツアー(2010/8/8)
このページの頭に戻ります
前ページに戻ります
[トップページ] [全国自然保護連合とは] [加盟団体一覧] [報告・主張] [リンク] [決議・意見書] [出版物] [自然通信]