リニア実験線見学ツアーに参加して

藤田 裕美子





 リニア中央新幹線と南アルプス貫通問題に関心があり、リニア実験線見学ツアーに参加した。

 はじめに「リニア見学センター」を訪れ、大月方面からのトンネル採掘現場、高架橋工事現場、南アルプストンネル試掘現場へ。各現場を視察する度に、大規模で急激な国土開発が適切な情報公開なしに拙速に進められていることに対し、憤りを覚える。

 また、現在、中央新幹線については国土交通省の交通政策審議会が開催されている中、「そもそも中央新幹線は必要か」「JR東海の事業主体としての事業遂行力の評価」という審議以前に、リニア実験線の延伸計画が進行しており、そのまま中央新幹線として実用化しようという筋書きが工事の進捗状況からも明らかな実態であった。

 昼食時には、山の手の高台から竹居高架橋の工事現場を眺めた。うす曇り立ち込める甲府盆地のリニアの延伸先に立ちはだかるのは、雲間から時折垣間見える南アルプスの山々。今年6月には「南アルプス貫通ルートが望ましい」との沿線各県の意向がまとまったとの報道がされていたが、「直線」の技術構造に裏打ちされたリニアが向かう先は南アルプスしかないことが一望の下だ。

 ツアー当日はリニア問題の大きさを改めて痛感した一方で、リニア・市民ネットやJR東海労働組合の関係者をはじめ、沿線住民等一人ひとりの思いや意見を伺い、リニアを取り巻く諸問題に関心を高める上で大きな視点となった。

 それぞれの立場で皆が共通に抱く疑問は、「そもそもリニアは必要なのか」とシンプルなものである。リニア・市民ネットでも検証しているように、リニア問題には地域衰退、JR東海の財源と採算性、環境破壊、エネルギー・技術問題、電磁波による健康被害などがあり、検証の領域と余地は多分に残されている。夢のリニアによる地域振興、利便性の向上という側面だけではなく、それと代償に将来の日本にどのような負の影響をもたらされるのか。

 参加者の意見でも、「リニア問題の情報公開を求めること」「国民的議論の展開が急務である」と課題があげられていたが、リニアの実態を知ることで、見直しに向けた推進力になる人たちがいると多いに期待したい。そのために、リニア・市民ネットが事業者・国・自治体の情報と動向を捉え、適切な情報公開を求めていくこと、国民(個人・団体・各業界)に広く情報を提示するとともに、市民の声を事業者や行政に伝えていくことなど、今後市民活動であるから果たせる役割、国民への影響力も考えながら活動に参加していきたい。企画者の方々、参加者の皆様どうもありがとうございました。

(2010年9月)






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