「脱法的手法」で風力発電進む


出羽三山の自然を守る会 佐久間憲生




 山形県自然保護団体協議会(加盟:15団体、幹事団体:出羽三山の自然を守る会)は、山形県と酒田市に対し、両自治体が事業主体で計画している風力発電建設について、法に添った環境影響評価を行ない、積極的な情報公開を行なうよう申し入れた。

 これは'12年8月、山形県と酒田市が酒田市十里塚地区に風力発電のための風車を3基ずつ計6基建設する計画を発表したものの、十分な情報が県民に公開されなまま事が進んでいることに危惧の念を抱いたからである。

 この風力発電の計画は1基2,300kWの出力で6基、計13,800kW、発電量は一般家庭約8600世帯分に相当、'14〜'15年の稼働を目指し総事業費は約54億円である。

  '12年の10月から環境影響評価法では合計出力7,500kW以上の風力発電施設を建設する場合、法定の環境影響評価を義務付けている。しかし県と市は今回の計画を合わせて風車6基の計13,800kWとは見なさず、それぞれ3基の計6,900kWとして、法定の環境影響評価の対象外とし、法定の環境影響評価と同じ項目の調査を実施するものの、自主的な環境影響評価を行なうとしている。

 これは法定の環境影響評価は3年程度要するが、自主的な場合はおおむね1年程度で済むこと、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度を活用することから、買い取り価格が高値水準の時から売電を開始したいという思惑がある。

 この計画が出てきた背景には '12年3月に山形県が策定した「山形県エネルギー戦略」がある。これは東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発事故を受け、これまで発電の主力であった原子力への安全性に対する信頼が失せたことから、山形県の吉村知事等が「卒原発」を提唱、新たなエネルギー源として、自然現象を「再生可能エネルギー」と位置づけ、太陽光、風力、地熱、中小水力、バイオマス等による発電の推進を図って行こうというものだ。

 計画されているこの地帯の自然条件は@庄内海浜県立自然公園に指定されているA国指定最上川河口鳥獣保護区に指定され、白鳥、ガンカモ類の季節移動ルートに位置し、環境省のレッドリストに載っているコアジサシの繁殖地であるB海岸の汀線−砂山(防浪砂堤)−砂草地−クロマツ林までは絶滅危惧種の植物、昆虫が分布する貴重な地帯であるC長年人間が手を加えて造成した砂防林であるクロマツ林が隣接する、等の特性を有する。

 またこの地区では過去に二つの風車計画('01年と'10年)が出てきたものの景観を損なうことなどを理由に認可しなかった、という経緯がある。

 しかし以上記載した自然保護、景観上の問題もさることながら、本来法に添った環境影響評価を行なわなければならない開発であるにもかかわらず、頑なに自主的な環境影響評価ですまそうとしている山形県と酒田市の姿勢である。

 環境省環境影響評価課では、「本計画の情報を得た時点で二つの事業主体で行なうにしても目的が同一であれば法に添った環境影響評価を行なうべき、と話をしたが、山形県は『「酒田市と山形県が計画しているものは目的が異なるので法による環境影響評価は必要としない』ということであった。省としては、『それでは市民、県民が理解できる客観的目的を提示すべきである』と話をした」とのこと。

 山形県自然保護団体協議会は「山形県エネルギー戦略」が示された直後に吉村山形県知事に対して、再生可能エネルギーの導入に関して「特に風力発電、地熱発電については自然公園等での造成は認めないでいただきたい」旨の要望書を提出した。

 これは、県が2030年に原子力発電1基分にあたる100万kWを開発目標にしていて、その目標推進の壁となる「法規制」の緩和を図ったり「総合特区制度の活用」を図るとしており、今後「自然公園」での開発も縛りが緩くなるような状況にあったからである。

 山形県の吉村知事と滋賀県の嘉田知事は、原子力ではない新たなエネルギー源を求めて「卒原発」を提唱しているが、「卒原発」の意味するものはそれだけではないはずである。

 それはこれまで「自主・民主・公開」という原子力平和利用3原則というものがありながらこれを踏みにじってきた官僚や学者、産業界、マスコミで組織するいわゆる「原子力村」が、真逆の姿勢で物事を決めてきた、そのようなシステムを改めることも「卒原発」の意味するものであろう。

 今回、山形県の姿勢には正にこの部分が欠けており、事業の進め方は旧態依然で、県民には情報提供を渋り、知事の「丁寧に説明する」という表明とは逆で、進め方は上意下達のままである。

 しかもあろうことか、全体の規範となるべき二つの行政の風力発電建設に対する姿勢は先に記したように、同じ地域に同じ規模の風車を計画しているにも係わらず、風車6基の計13,800kWとは見なさず、それぞれ3基の計6,900kW、法定の環境影響評価の対象外としており、これはまさに脱法的行為といわざるを得ない。

 両事業主体は何故このように住民やマスコミ、環境省からも疑問を投げかけられながら、法に寄らない「自主的な環境影響評価」に拘泥するのか、穿った見方をすれば、事業を推進したい「経済産業省」が裏にいて「悪智恵」を授けているようにも思われる。

 いつものことながら国の環境行政のひ弱さに歯ぎしりをする日々であり、両事業は既に環境影響評価の調査項目などをまとめた「方法書」が '13年12月に確定し、事業は着々と進んではいる。が、多くの市民がこの状況に異議を唱えており、風力発電建設是非の前に、物事の進め方が問題有りとして、当事者にはもちろん、広く県民に問いかけを行なっている。行政の取り組みが今後のエネルギー確保の規範となるよう、他の団体と連携しながらめげずに取り組みを継続していくつもりである。

(2013年12月)






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