「400年かかる公共事業」の現場をみる
〜東京・江戸川区のスーパー堤防〜
(2013年)2月22日、東京・江戸川区のスーパー堤防見学会が開かれました。全国自然保護連合、千葉県自然保護連合、公共事業改革市民会議のメンバーが参加しました。
案内してくださったのは、地元住民でつくる「スーパー堤防・街づくりを考える会」や「江戸川区スーパー堤防取消訴訟を支援する会」の方々です。
■完成まで400年かかる
スーパー堤防事業は、200年に1度の大洪水に耐えられるよう堤防の幅を高さの30倍(200〜300メートル)に広げるというものです。1987年から始まり、首都圏と近畿圏の6水系873キロメートルを整備する計画でした。完了まで400年、総事業費12兆円とされたため、2010年10月の事業仕分けで「廃止」の判定がでました。ところが江戸川区は、廃止判定後もスーパー堤防事業を強引に進めています。
その特徴は、「まちづくり整備事業」(土地区画整理事業など)との一体施工を基本としていることです。対象区域の住民は、事業が完了するまで3〜5年、ほかの場所で仮住まいをします。そして盛り土と宅地造成が終わってから、スーパー堤防の上に新居を建てて戻ることになります。
スーパー堤防の事業費は膨大です。江戸川区の試算によれば、同区におけるスーパー堤防の整備は、総額で2兆7000億円です。完成までに200年かかるとしています。
■「本堂とお墓をどこに移動させていいのかわからない」
この日は、スーパー堤防が完成したとされる平井7丁目と小松川2丁目の堤防や、住民がスーパー堤防事業取り消しを求めて提訴した北小岩1丁目東部地区の事業予定地などを見学しました。
スーパー堤防事業対象区域には、数百年前に創建された由緒あるお寺もいくつかあります。あるお寺の方がこんな話をしてくれました。
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「この寺は地盤がいい。比較的高い場所にあり、昔から安全な場所といわれている。じっさいに、洪水で浸水被害を受けたという記録はない。どうしてそんな場所をスーパー堤防にするのか。このへんの住民でスーパー堤防を必要としている人はひとりもいない。自然も破壊する。そんなムダなことは即刻やめてほしい」
「本堂とお墓をどこに移動させていいのかわからない。寺としては死活問題だ」
■「江戸川区は悪質地上げ屋と同じ」
現場を見たあと、「小岩アーバンプラザ」(江戸川区の施設)で住民のみなさんと懇談しました。こんな意見がだされました。
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「軟弱地盤の堤防の上に建物を建てること自体が間違っている」
「上流の葛飾区はスーパー堤防事業をやらないと聞いている。上流の堤防で越流したら、江戸川区も浸水する。下流の江戸川区にだけスーパー堤防を点在させてもまったく意味がない」
「スーパー堤防にしても、堤防の高さは変わらない。幅が広がるだけだ。江戸川区は“スーパー堤防は周辺住民の一時避難場所になる”と宣伝している。しかし他方で、“津波や洪水が発生したら、川からできるだけ離れなさい”と訴えている。これは矛盾だ。そもそも、危険な川沿いの堤防の上を避難場所に指定すること自体がおかしい。ムチャクチャだ」
「堤防補強という点では、堤防の中に『壁』を造るなどいくつかの方策がある。それをやるべきであって、完成まで何百年もかかるスーパー堤防に巨額の税金をつぎこむのはバカげている」
「区は、事業が都市計画決定される前から先行買収を進めている。住民に立ち退きを半強制的に迫っている。ものすごく強圧的だ。お年寄りや女性をねらいうちにしている。昼間、屈強な男性職員が2、3人でやってくる。玄関とトントンとたたき、“スーパー堤防にするからぜひ承諾してほしい”と威圧的に説明する。まるで悪質な地上げ屋と同じだ」
区の執拗(しつような)な脅しに耐えきれず、用地買収に応じる世帯も増えています。「数年の仮住まいや二度の引っ越しには耐えきれない」とあきらめる世帯もあります。
用地買収に応じた家はすぐに取り壊しです。買収に応じない住民に取り壊しの騒音を聞かせ、精神的に苦痛を与えるのだそうです。地区の一部は“空爆されて破壊された街”のようになっています。コミュニティも破壊です。
江戸川区はディペロッパーや地上げ屋になっています。住民の暮らしを守るべきはずの行政が住民を追い出したり、精神的苦痛を与えたりしているのです。いったいどうなっているのでしょうか。
今後、住民のみなさんの運動に協力していくことになりました。
完成したとされる平井7丁目のスーパー堤防を見学
完成したとされる平井7丁目のスーパー堤防。
本来は財務省職員住宅(右)も事業対象区域に含まれる
はずだが、除外された。堤防から100mくらいの場所に
直立擁壁(左)がつくられ、土盛りはそこで終わっている。
北小岩1丁目東部地区のスーパー堤防事業予定地。
住民が事業取り消しを求めて提訴した
北小岩1丁目東部地区では、江戸川区が住民を
強引に追い出し、次々と建物を取り壊している。
「スーパー堤防・街づくりを考える会」の方から話を聞く参加者
お寺の方からも話を聞いた
事業予定区域では、あちこちの住宅に反対のノボリ旗が掲げられている
★関連ページ
- 裁判長交代で新展開〜スーパー堤防事業取消訴裁判の第6回口頭弁論(2013/4/17)
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