山岳トレイルラン問題をめぐる最近の状況

〜環境省が指針を発表〜

NPO法人白山の自然を考える会 清水孝彰






 昨年(2014年)8月、白山では全長250km、累積標高差8000m以上のトレイルランの競技大会「白山ジオトレイル」が開催された。当会は自然環境や登山者の安全性の問題を理由に、登山道をコースから外すよう要望してきたが、結果的には最混雑区間を「歩行区間」とした以外は、予定通りのコースで実施された。当日は登山口へのアクセス道路が通行止めになるほどの大雨となり、登山であれば中止・延期が妥当な天候で、登山道の自然環境や安全性に著しい問題が懸念される中での開催となった。

 丹沢でも、主に登山者の安全性の問題に関し地元ともめた中で、今年3月に競技大会が開催されている。

 このように、山道を駆けめぐる山岳トレイルランの人気が高まり、問題も大きくなる中、環境省が「国立公園内におけるトレイルランニング大会等の取扱いについて」(以下「取扱い」)を2月15日に発表した。それには以下のようなことが書かれている。
  • 登山道等は徒歩利用を前提に計画・管理され、集中的な走行利用は想定していない。トレラン大会等の開催による、登山道と周辺の自然環境への影響、公園利用者の安全で快適な利用の妨げが懸念される。
  • コース設定に関する基本的な考え方として、特別保護地区、第1種特別地域、それに準ずる自然環境をもつ場所は原則回避。
  • 高山植物群落をはじめ、湿潤環境、ガレ場、洗掘箇所等についてはコース設定しない。

 これ以外にも、混雑路線や混雑期の回避、自然環境の事前事後のモニタリング実施、自然環境保全のための監視員配置、悪天候時の中止ができる体制など、当会が昨年問題とし、環境省に要望した内容はほぼ網羅されている。

 この「取扱い」を素直に運用すれば、白山の登山道コースは、大部分が特別保護地区を通過している上に、「コース設定しない」とされている高山植物群落等を多数通過するため、ここで大会は開催できないことになる。

 問題は「取扱い」がどの程度の拘束力をもつ文書なのか、である。今回の「取扱い」の位置づけとしては、大会主催者等からの相談、環境省の許認可の運用等に関する細部解釈の指針であり、「国立公園管理運営計画」の作成や改定の際に記載する指導事項等として扱うこととされている。

 白山ジオトレイルの実行委員会では、今年も昨年と同じコースでの開催を企画しているが、今回の「取扱い」を遵守し、登山道をコースから外すよう、実行委員会と交渉を続けていく。環境省に対しては登山道をコースから外す指導をするよう要望していく予定である。
(2015年4月)





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