白山は競技の場所ではない!
〜山岳トレイルラン問題〜
NPO法人白山の自然を考える会 清水孝彰
近年、各地を巡りながら長距離を走る競技、トレイルランがブームとなっている。山岳地がメインコースとなる山岳トレイルランも人気が高まっており、最近では山を歩いていると、軽装で走り抜ける人とよくすれ違うようになった。
今年の8月後半、白山では全長250km、累積標高差8000m以上の国内最大級のトレイルランの競技大会が計画され、実行委員会が組織され準備が進んでいる。「白山ジオトレイル」と呼ばれるこの大会は、概ね以下のようなコースが予定されており、参加費は128,000円、募集定員は40人に制限されている。
1日目 白山比刀iしらやまひめ)神社 → 鳥越地区(距離:35km、制限時間:10時間)
2日目 鳥越地区 → 瀬女高原スキー場周辺 (距離:40km、制限時間:11時間)
3日目 瀬女高原スキー場周辺 → 一里野温泉スキー場周辺
(距離:25km、制限時間:8時間)
4日目〜5日目 一里野温泉スキー場周辺 → 白山山頂(標高2702m) → 白峰林西寺
(距離:80km、制限時間:35時間)
6日目 白峰林西寺 → 大日スキー場周辺(距離:45km、制限時間:12時間)
7日目 大日スキー場周辺 → 鶴来地区(距離:25km、制限時間:5時間)
問題は4日目〜5日目の、登山道を利用して白山山頂を縦断する部分である。山頂を含む山域は、国立公園の特別保護地区、ユネスコエコパークの核心地域にも指定された、自然環境を厳格に保全すべき地域である。白山の自然を考える会では、自然環境への影響や登山者の安全性の問題が大きいとして、総会で登山道利用に反対する決議を挙げ、3月12日に環境省、5月8日に実行委員会に要望書を手渡し、話し合いを行った。問題点は環境省あての要望書にまとまっているので参照されたい。
環境省としては、実行委員会にさまざまな注意はしているものの、中止などの強制力はないとの見解で、公式には、自然公園管理計画書の「参加者が数百人を超える規模で開催されるトレイルランコースについて指導する」との指針しかない。また、実行委員会からは、登山道の除外(コース変更)は全く考慮されない回答があった。
当会は白山の登山道沿道の植生調査や、一部登山道の委託管理を毎年行っている。これら現地での活動を通じて、登山者の踏みつけ衝撃やすれ違い時の踏み外しが積み重なり、沿道の植生破壊や登山道からの土砂流出へとつながるメカニズム、また、植生回復のプロセスなどを、具体的なデータとして蓄積している。一般に標高の高い場所にある、またお花畑の中を走る登山道ほど脆弱であり、衝撃の影響は大きくなる。
山岳トレイルランが競技として定着・大規模化しないよう、また、他の山岳に波及しないよう、今後は実行委員会、環境省や石川県に加え、白山比盗_社(地権者)とも接触し、交渉を続けていく予定である。
(2014年6月)
要望書 |
平成26年3月12日
環境省 中部地方環境事務所
白山自然保護官事務所
自然保護官 松木 崇司 殿
特定非営利活動法人白山の自然を考える会
理事長 石 野 洋
「白山ジオトレイル」についての要望書
2014年8月23日〜29日に「白山ジオトレイル実行委員会」が主催・計画している「白山ジオトレイル」の件ですが、その行程中、4日目〜5日目の「一里野温泉〜白山御前峰〜白峰林西寺」のコースについて、以下の事が懸念されます。
- 当該コースは登山道を使って競技が行われるもので、速歩きや走行による衝撃で登山道が破壊される。
- 速歩きや走行は一般登山者を追い抜くことが多くなり、接触や転倒事故の恐れがある。
- 速歩きや走行で狭い登山道での追い抜きや交差は、登山道を踏み外すことが予想され、貴重な植物の損傷が懸念される。
- ストックを使っての速歩きや走行は、他の登山者にとっては大変危険で迷惑である。
- 白山は古より禅定道を登拝してきた山岳信仰の聖なる山であり、貴重な自然を危険に晒(さら)すビジネス的な競技の場にすることは許されないと考える。
以上のことから「白山ジオトレイル」のコースから登山道を外すよう指導されることを強く要望し、その結果を文書でお知らせ願います。
併せて、他の行程中にも国立公園が含まれていないか調査を要望するものです。
以上、ご対応の程よろしくお願い申し上げます。
(2014年6月)
★関連ページ
- 山岳トレイルラン問題をめぐる最近の状況〜環境省が指針を発表(清水孝彰、2015/4)
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