南アルプスにトンネル!
〜「リニア中央新幹線」の実情〜
リニア・市民ネット 窪田 誠
15年も前の亡霊がまた現れた。JR東海が2025年に「リニア中央新幹線」を東京〜名古屋間で開業する意向を明らかにしたときの、それが最初の感想でした。
そうです、一度は見送られていた構想が、なぜか今復活してきたのです。それは、前回反対していた私たちにも、積極的に推進していた人たちにも、突然の話でした。
山梨では早くも駅の誘致合戦が始まっていますが、このリニア新幹線がどんなものなのかは、ほとんど検討されていません。現状は「オラが町に電車が通る」くらいの感覚でしかないようです。
こうした状況の中で、成り行きに任せて進んで行くことに危機感をもった計画沿線の有志が集まり、3月に「リニア・市民ネット」を立ち上げました。そして8月には、南アルプスを貫通するトンネルのためにボーリング調査が行われた長野県大鹿村で宿泊して現地学習会を行いました。そこでの感想は、後述しますが、参加者全員が驚くようなものでした。
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さて「リニア」ですが、JR東海が東海道新幹線のバイパス機能をもたせるため、東京〜名古屋間を50分で結ぼうとしているのが、リニアモーターカー(通称リニア)の新幹線です。現在の東海道新幹線沿いに走らせるのではなく、東京から神奈川・山梨・長野・岐阜をまわって名古屋に至るルートです。中央リニア新幹線といわれ、建設費は5兆円を見込み、南アルプスにトンネルを掘って通そうという計画です。
しかし、リニアには、必要性はもとより財政的・技術的課題、環境破壊、電磁波の影響など、さまざまな問題があることが指摘されています。これらの問題が解決されなければ、私たちや未来世代にとって大きな負担、マイナスになってしまいます。
ここでは簡単にそれらの問題点を挙げてみたいと思います。
(1) 建設費
JR東海では、5兆1000億円の建設コストという予算を出しています。しかし、公共事業というのは当初見積もり予算の平均3倍かかって完成する事業といわれていて、実際には15兆円は必要になると思われます。
しかもこの数字は、15年も前の資材費用見積もり額からつくられていて、現在価格と大きな開き(不足額)があると思われます。さらに、万が一経営破綻した場合は公共交通のため、税金の投入は避けられません。莫大な費用のかかる(長大な引き込み線などのために)中間駅の建設費は地元の負担ということですから、自治体の破綻も考えられます。
(2) 環境問題
リニア新幹線のウリはスピードで、時速500q以上。当然カーブのない直線路線が望ましいため、南アルプス直下をトンネルで通過するルートを予定しています。南アルプスはその奥深さもあって自然が豊かに広がり、貴重動植物の宝庫です。地元の人たちにより、世界遺産登録に向けての準備も進められています。
また、ここには有名なフォッサマグナ(糸魚川〜静岡断層)があり、トンネル掘削となると大工事というだけでなく、水脈の変化や生態系の破壊が危ぶまれます。このような環境に大きなダメージを与える工事は、世界遺産登録はおろか環境保全の面からも再考の必要がありそうです。
(3) エネルギー問題
リニア新幹線についての電力容量は未発表です。試算するしかありませんが、1両に100人座るとし、1列車が(16両として)32万キロワット。少なく見積もっても1日に延べ150本以上の列車が走るとすると、同時に8〜9列車が動いていることになり、これは新たに原子力発電所3基は必要になります。
原子力発電は、廃棄される放射性物質を数十万年にわたり管理しなければならないもので、その間のコスト・危険性を考えれば決して安くもクリーンでもないエネルギー。本来なら古いものから廃炉にして、自然エネルギーに転換するべき時代の流れです。
(4) 電磁波問題
JRのリニアモーターカーというのは超伝導磁気浮上式といって、簡単にいえば磁石の反発力を応用して動かすものです。とはいっても、列車のような重いものをしかも高速で動かすのですから、私たちが想像する以上の磁力を発生させなければなりません。
携帯電話や電子レンジからの電磁波の影響が言われていますが、リニア新幹線はその比ではありません。また、心臓ペースメーカーの使用者は乗れない、などの話もありますが、人体への生理的影響はいまだ不明になっています。
(5) 人口減少と需要問題
日本はこれから人口が減少していきます。現在の東海道新幹線の利用状況から換算した利用予測では正確さは期待出来ません。
さらに重要なのは、東京〜名古屋(大阪ではなく)間ですから大阪へは乗り換えが必要になり(大阪〜名古屋を新幹線で利用する人いるんでしょうか?)、利用者は激減しそうです。
(6) 沿線都市の衰退問題
これは、かなり重要な問題になります。
(2)でも触れましたが、リニア新幹線はそのスピードが売り物です。駅が多ければ、加速する間もなく減速という繰り返しで、何もメリットがなくなります。速さ・建設コストを考えれば、中間駅は少ないほど利便性があるわけで、沿線都市との矛盾です。沿線都市に駅ができたとしても、駅に行くまでの時間はかなりかかると予想されます。
高速移動を求める起点・終点都市の利用者にとっては便利かもしれませんが、それ以外の都市は単なる通過都市(道路なら下車もできますが高速列車では途中下車は少ない)になります。高速道路の例を引くまでもなく、沿線は衰退する可能性が高いのです。
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以上、問題点を6つに分けて考えてみました。これらの問題がクリアーになり、多くの人たちが議論に参加できるようになることを期待しています。
そして、前述の大鹿村現地学習会の感想ですが、上記問題点のなかでも触れましたが、断層の真っただ中にあります。地元の方の話では、普段少しでも雨が続くと生活道路は土砂崩れで寸断されるような場所です。あたりを見回しても山肌がいたるところで崩れているのがわかります。よりによって何でこんな所にトンネルを、というのが正直な感想です。「山を全部崩してから作らないと、危なくていられないよ」という見学者の言葉がすべてを象徴しています。
リニア新幹線をどのようにすべきか、本当に必要なものなのか、考えていただきたい大きな問題です。
(2009年9月)
★関連ページ
- 南アルプスを自然破壊から守ろう!(大西将之、2009/04)
- 「リニア・市民ネット」を結成(2009/3/8)
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