■本の紹介
富山洋子・神田浩史著『おんなたちは鬼になる』
─消費者運動、原発、平和─
解放出版社/1400円+税
いのちや暮らしを守るために果敢にたたかう女性たちをえがいた書である。
著者の富山洋子さんは日本消費者連盟の運営委員長や代表運営委員を長くつとめ、消費者運動を牽引した。全国自然保護連合の運営委員や事務局もつとめ、自然保護運動にも尽力した。富山さんは2011年3月の福島第一原発事故以降、自身の思いを文章にして発信してきた。それをまとめたのがこの本である。
足尾銅山の鉱毒をめぐる女たちのたたかいもとりあげている。知られざる田中カツの奔走もである。カツは田中正造の妻だ。正造のたたかいを支え、救済活動に力をつくした。
富山さんは反原発運動に貢献する女性たちもえがいている。たとえば和歌山で長くつづいた原発建設阻止運動である。この運動でも女性たちががんばった。おかげで、和歌山をはじめとする紀伊半島には原発が1基も建設されていない。
原発を拒否した和歌山の果敢かつ緻密な運動は、蒲生田原発の建設に反対する人びとも勇気づけた。蒲生田原発は、対岸の徳島県阿南市の蒲生田崎に四国電力が計画した。ねばり強い運動によって、この原発も建設中止となった。
富山さんは田中正造のたたかいもとりあげている。正造は衆議院議員の職を辞し、谷中村の一住民として、在野の運動家として、足尾銅山の鉱毒とたたかいつづけた。
正造ほど冒とくされている人物はめずらしい。三番瀬は東京湾奥部に唯一残る自然の干潟・浅瀬だ。その三番瀬の人工干潟造成(=埋め立て)計画に賛成した学者が利根川流域市民委員会の集会に出席し、正造の言葉を引用しながら環境保護を説く。「真の文明は山を荒らさず…」という言葉である。また、消費税増税法案に賛成した国会議員が自然保護集会に来賓として出席し、あいさつのなかでおなじ言葉を引きあいにだす。このように、田中正造の名前や言葉は変節や保身の隠れ蓑(みの)として悪用されている。虎の威を借るキツネたちにである。
富山さんはちがう。富山さんは86歳だ。日本消費者連盟の代表運営委員を退任したあともさまざまな社会運動に献身している。「さようなら原発全国集会」では、いまも実行委員会の中心メンバーとして尽力している。たいへん困難な状況で倒れるまでたたかいつづけた田中正造の生き方そのものである。わたしは、そんな富山さんを尊敬している。わたしもかくありたい、こう生きたい、と思っている。
富山さんは正造の生き方を高く評価している。正造も草葉のかげで喜んでいると思う。
本書は、NGO活動を長年つづけている神田浩史さんとの対談も収録している。多くの人に読んでほしい1冊である。
(中山敏則)
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