■本の紹介
辻淳夫著『ちどりの叫び、しぎの夢』
─辻淳夫の干潟からの声─
東銀座出版社/2013年12月刊/1619円
著者の辻淳夫さんは「藤前干潟を守る会」の名誉理事長である。藤前干潟は伊勢湾の最奥部に広がる干潟だ。大都市圏に残された貴重な野鳥の楽園となっている。
この干潟を埋め立ててゴミ処分場をつくる計画を名古屋市がたてた。そのため、辻さんは藤前干潟の保全活動に全力を注いだ。
同書を読めば、埋め立て計画を中止させた運動の教訓がわかる。
1987年、周辺地域の自然保護11団体が参加する「名古屋港の干潟を守る連絡会」をつくった。運動を進めるうえで次の3点を心した。
- ヒマのある人は時間を、カネのある人は資金を、チエのある人はアイデアを。
- 説得力あるデータにもとづく、ていねいで分かりやすいキャンペーン。
- ユニークで楽しい、手づくりの運動を創る。
地域の人々に干潟を親しんでもらおうと、「干潟まつり」も企画した。「鳥子ども団」が子どもたちの遊び場づくりと運営に大活躍し、2000人の人出を呼ぶにぎわいとなった。「鳥子ども団」は、街中での「アキ缶回収作戦」や藤前干潟の「ごみそうじ」でもリード役となった。
藤前干潟の保存を求める署名は10万人を超えた。署名は、多くの人に藤前干潟のことを知らせ、ゴミ問題を考えてもらうことにつながった。署名集めに協力した人は、参加団体以外に1000人を超えた。埋め立て側だった名古屋市職員労働組合清掃支部も干潟保存への方向転換を打ち出した。こうして1999年、藤前干潟の埋め立て計画は中止になった。保存が決まり、2002年にラムサール条約登録湿地となった。市民の環境意識が高まり、ゴミの減量も進んだ。
自然破壊の大型公共事業を中止させるためにはこういう運動が必要である。本書は市民運動を進めている人々にとって貴重なヒントを与えてくれる。
(中山敏則)
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