■本の紹介

田口理穂著『市民がつくった電力会社』

─ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命─

大月書店/2012年8月刊/1700円






 ドイツの南西の端っこにシェーナウという小さな街がある。人口は2500人ほどだ。この街で市民グループがシェーナウ電力会社を経営している。ドイツ初の自然エネルギー専門電力会社である。

 設立のきっかけは1986年に起きたチェルノブイリ原発事故だ。シェーナウも放射能汚染の危機にさらされた。しかし、政府や電力会社は何の対策もしてくれなかった。そこで、市民グループは翌87年、子どもたちを放射能汚染から守ろうと、「原子力のない未来のための親の会」を発足させた。「原発をやめて、100%再生可能エネルギーにする」というビジョンもたてた。91年、市民投票によって送電線買い取りの同意を市民から得た。そして、大手電力会社との長きにわたる確執を経て、1997年に自然エネルギー専門のシェーナウ電力会社を設立し、電力供給を始めた。当初は社員3人、顧客数は1700であった。現在は社員約80人、顧客数13万5000を誇っている。

 ドイツでは1998年に電力市場が自由化され、発電、小売、送電の業務が分離された。そのため、現在はさまざまな形態の電力会社が存在する。シェーナウ電力会社は小売が主である。しかし、送電線も所有していて、送電もおこなっている。独自の太陽光発電装置や水力発電所も保有し、少量ながら発電もしている。
 同社が扱う電力は、いまはノルウェーの水力発電所からのものが大部分だ。しかし、ドイツ国内の小さな発電施設からの購入も徐々に増えている。

 脱原発を実現するためには、再生可能エネルギーをよりいっそう増やす必要がある。そのため、あちこちで太陽光発電の建設や古い水力発電所の改修などに投資している。それらを市民参加で進めている。反原発運動も支援している。

 著者は、1996年からドイツのハノーファーに住むジャーナリトである。反原発運動から電力会社設立にいたる経過や現在のとりくみなどをわかりやすくまとめている。

 ドイツと日本では法制度や文化などがかなり違う。しかし、シェーナウのとりくみは、日本で再生エネルギーを推進する人たちの大きな励みとなることうけあいだ。

 同書には「原子力に反対する100個の十分な理由」も掲載されている。これは、原子力の害についてあらゆる角度から分析したものである。とても参考になる。
 脱原発とエネルギー転換が強く求められているいま、注目の一冊である。

(中山敏則)













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