鬼泪山の国有林を守る市民の会
■ことの起こり
千葉県は日本一の山砂生産県である。山砂は、東京湾の大規模な埋め立て(羽田も)や首都圏の高層ビルの骨材として利用されてきた。東京湾側の富津市から君津・市原にかけての房総丘陵の市宿(いちじゅく)層は砂の塊といってよい。70万年もかけてできた山砂は、取れば無くなり再生産できない。それを無計画に、乱暴に、大量に採取した。毎日何百台もの大型ダンプが砂をまき散らして走った。わずか40年で森林はおろか山まで消え、砂漠のようになった。景観が破壊されただけではない。地下水は涸れ、突風が吹き砂塵が舞う。大雨が降ると洪水になる。さらには、砂を採取した大穴に首都圏の残土が持ち込まれる。
こうして採取可能な民有地の砂山は減少し、富津市の鬼泪山(きなだやま)国有林の下の山砂が狙われた。森林面積が激減した千葉県では、国有林からの山砂を採取するには「千葉県の発展に寄与する公共事業」で、かつ「土石採取対策審議会(土石審)による建議」が出されることが条件だ。採取業者は08年9月県議会に国有林からの山砂採取に向け「土石採取対策審議会の早期開催を求める」請願を提出、自民・公明の賛成多数で採択された。採択をうけて09年1月から土石審が開催された。
土石審の15人の委員は、4人の学者と1人の県議をのぞいて全員が関連業者代表とそれを公然と応援する県会議員で占められている。危機感を持った私たちは09年1月、「鬼泪山国有林の山砂採取に反対する市民の会」を結成して市民への宣伝、反対署名、対県交渉を行う一方、@国有林と山が無くなれば富津市の水道水源が涸れる A山が無くなると降水が減るなど気候が変わる B砂の儲けより里山や森林や水など失う価値が大きい Cそこまで犠牲にしてやるほどの公共事業は千葉県には今ない、という「採取に反対する4項目の見解」を土石審に提出した。
■どうなったか?
千葉県は私たちの「4項目見解」の土石審提出をすんなりと認めた。200名近い傍聴者の見守るなか、土石審ではこの見解にたいして主に4人の県会議員の、曲解やすり替え、難癖としかいえない発言が延々と続いた。結果的には私たちの見解に沿って審議が進んだ。
そのようななかで、山田利博委員(東大教授、林学)が「日本の森林の価値は金額に換算すると年間80兆円、これを鬼泪山国有林の計画地に換算すると年間4億円となる」と発言した。このとき、場内は一瞬静まり、次にどよめきが広がった。また、発言を求められた県の部長は、「国有林からの山砂採取は本県の発展に関連性の深い公共性の高いプロジェクトに使用する以外は認めていない。現在、そのような事業は存在しない」と答え、賛成派の議員が激怒した。
4回の審議を終え、会長の渡辺千葉工大教授が出した結論は、「今、国有林からの山砂採取は認められない」であった。会長は、環境を守ることの大切さを力説した異例の会長見解を結論に添付した。千葉県の森田知事は議会で「私も同様に考えている」と発言した。
■これで鬼泪山は「あんたい」なのか
「公共性の高いプロジェクトは今存在しない」から認可しない。では「存在すれば」認可するのか。公共性が「高い」と誰が判断するのか? 今回は中小の山砂業者だったが、大手のゼネコンならどうか? 県は大型開発を推進して自然を壊してきたことを反省しているのか。
ともあれ、「きれいな砂」を首都圏に運び、代わりに残土・産廃が持ち込まれることに、市民も県も温度差こそあれ危機感を共有していた。その前提に立って市民に事実を広く知らせて1万を超える反対署名を集め、多くの傍聴者の前で科学的な根拠に基づく見解を展開できた。そのことが今回、国有林からの山砂採取をストップできた大きな要因と考える。
富津市の田倉地区では、産業廃棄物処分場建設反対運動が最高裁まで争って勝利した(08年7月)。このことも大きな追い風となった。富津市では、残土処分場に反対する地域ぐるみの運動も広がっている。
(2011年9月)
《参考ウェブサイト》
http://www.boso.shizen2.jp/yamazuna.htm
鬼泪山国有林104林班(奥)と山砂採取で消えた浅間山の跡地(手前)
上総堀による自噴井(君津市久留里地区)
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