八ッ場ダム事業の中止を求める決議
群馬県吾妻(あがつま)郡長野原町の吾妻川に計画されている八ッ場(やんば)ダムは、今から51年前の1952年、首都圏の利水と治水調節を目的に計画された。
このダム計画は、以下のような重大な問題をかかえている。
- ダムの水は利根川流域の5都県(東京都、群馬・茨城・埼玉・千葉県)が利用することになっているが、都市用水(水道用水+工業用水)の需要は1990年以降ほぼ横ばいの状態が続いている。また、5都県の人口は、2025年には1995年の人口総数に逆戻りするという推計もされている。こうしたことから、新たなダム建設による水源開発は必要ない。
- 治水面をみると、このダムは1947年のカスリーン台風時の洪水にもとづいて計画された。しかし、この台風における洪水流量1万7千m3/秒(群馬県伊勢崎市の八斗島地点)は、戦時中の赤城山山麓の開墾とエネルギー源確保ための森林伐採によって引き起こされたものである。それとともに、当時の堤防の未整備も大きな被害を引き起こしたと指摘されている。その後、「緑のダム」機能の回復が進み、流量が1万m3/秒を超えることはなくなった。こうしたことから、八ッ場ダムをはじめ新たな洪水調整ダム群を建設する必要性は見出せない。
- 吾妻川は強酸性の川である。このため、草津に中和工場がつくられ、湯川(草津温泉のすぐ下流)に大量の石灰乳液が注入されている。その中和生成物を沈殿させるため品木ダムもつくられている。しかし、品木ダムは中和生成物を中心とする堆砂で年々埋まってきており、近い将来に満杯になることは必至である。品木ダムが満杯になれば、白濁水が八ッ場ダムに流れ込み、中和生成物の沈殿池になる。こんなダムの水は、飲み水には適さない。
- ダム建設によって、長野原町は約340世帯が水没する。自然に囲まれた川原湯(かわらゆ)温泉はすべて水没である。また、“関東の耶馬渓”とよばれている吾妻渓谷も大半がなくなってしまう。絶滅が心配されているイヌワシなどにも影響がおよぶ。このように、地域の人々の生活基盤、歴史・文化、自然が水底に沈むことになる。
- ダムの総事業費は、1985年策定の基本計画では2110億円とされているが、18年経過した現在では5000億円以上と試算されている。いま、国、地方の財政は破産寸前にいたっている。こうした中、関係都県は八ッ場ダムへ巨額の負担金を支出させられ、財政圧迫の一因になっている。
こうした理由から、私たちは八ッ場ダム計画を中止するよう求めるものである。
以上決議する
2003年9月6日
全国自然保護連合
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