オオタカの国内希少野生動植物種指定解除について
中嶋順一
準絶滅危惧種にランクダウン
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猛禽類の中でオオタカは里地里山の環境を代表する鳥だといわれます。一年を通してそのような環境で生活しています。
いわゆる里地里山とは、昔でいえば人の生活する里と奥深い奥山の間に位置していて人々の自然利用と動物の生活が重なるような場所だったのでしょうから、里山はおのずと人の生活環境に接することになります。人々がほどほどに自然に手を加えることによって一定の環境が維持されてきたのでしょう。
しかし日本も一気に経済成長をとげると都市部にある里山などは開発圧が高まります。都市部やその周辺にあるまとまった林は現在主流の経済観からすれば不要で不活用な土地と考えられることが多いようです。土地の有効利用や居住地の不足などから、林を開発することは多いのが現状です。それに対し、仮にオオタカが生息すると現在の法律では「土地の所有者などは希少種の保存に留意しなければならない」ことになっており、開発に対してはブレーキ役となっています。
今回話題のオオタカは、現在は個体数が一定以上回復したとして環境省のレッドリストで絶滅危惧種から外れ、準絶滅危惧種にランクダウンしました。それによって種の保存法にもとづく国内希少野生動植物種の指定解除に向けた検討がはじまりました。
私も仙台会場と東京会場で環境省主催の意見交換会に参加しましたので、感想を述べたいと思います。
「個体数増加」に疑問
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まず、種の保存法を外す根拠となっているのが環境省のレッドリストです。これまでに4回の見直しを経ています。第1次と第2次ではVU(絶滅危惧U類)と評価されました。第3次でNT(準絶滅危惧種)にランクを落としました。第4次でもNT(準絶滅危惧種)です。
絶滅危惧種から外れると希少野生動植物種ではなくなるとした論調で、種の保存法にもとづく希少野生動植物種解除に向けた検討がはじまりました。
種の保存法から解除されると先に述べたような里山での開発に対する抑止力を失う恐れがあることから、自然保護の観点ではとても心配されます。
また問題だと感じるのは、レッドリストの第3次でVU(絶滅危惧U類)からNT(準絶滅危惧種)にランクダウンした時の調査手法です。第2次まではレッドリスト作成を直接の目的とした水準で全国的な調査が行われたそうですが、第3次、第4次では直接の調査は行わず、聞き込みや推定で評価をしたと知りました。その点を意見交換会では指摘して質問する方もいらっしゃいました。調査データの公開をして誰にでも納得のゆく説明を求めることを要求した意見には、環境省としては希少種なので公開はできないとした回答でした。そもそも希少種を外す議論をしているのに、片方ではいまだ希少種扱いで非公開とはおかしいのではないか? との指摘もありました。
全国的にオオタカは個体数を回復していると説明を受けましたが、たとえば先日山形県版の第2次レッドリストが公開されました。オオタカは「里山環境の変化による生息環境の悪化や、近年、繁殖する個体や巣立つ雛の数が著しく減少し……」とした理由から以前のVU(絶滅危惧U類)からEN(絶滅危惧TB類)とランクを上げました。また仙台湾の海岸部に沿って続いた海岸林にはオオタカの生息地が点在していました。震災後の一大開発によって海岸林での繁殖は年々成功率が下がり、昨年(2015年シーズン)は震災後継続的に見てきたサイトではすべて失敗したとする報告もあります。
たしかにオオタカは以前より人の目につきやすくなったかもしれません。都市部の林から採食する場所を都市内に広げるなどして、都市環境に徐々に適応している例もあるからです。そういった例を単純に個体数増加と受け止めるのには違和感を覚えます。オオタカの生息する里山のような自然環境を保護したことによって個体数が増加したのなら喜ぶべきことでしょうが、近年確実に自然環境は減っているにもかかわらず、オオタカだけが増加している現象は理解しづらいものがあります。精度の高い調査が必要だと感じます。
里地里山の開発も心配
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仮にオオタカが種の保存法から外れると、オオタカに対する配慮は各地方自治体の判断になります。今までは国の法律でしたので、地方自治体はそれにしたがいアセスなど措置を講じなくてはなりませんでした。また、自治体によっては「自治体版種の保存法」のような条例もあります。しかし、その条例も国の種の保存法が根拠法ですので、オオタカが国の指定を解除されると条例も解除せざるをえないと、各地で解除の連鎖が働くおそれもあります。また指定が解除されると、自治体が事業者の開発で、オオタカに対しての判断も自治体となります。これは非常に問題だと指摘されています。
これまでの話をまとめると、オオタカの指定解除はオオタカそのものに対する心配と里地里山の開発に対する心配があります。そして里地里山の自然環境を守る法律は現状では存在しませんので、唯一オオタカの種の保存法頼みで多少なりとも保護されてきた訳です。里地里山の自然環境を保護する法律がない現状で、オオタカだけを解除することに対しては意見交換会に参加したパネラーの皆さんも明確に反対していました。
そもそも一つの希少種に頼るのではなく、生物の多様性を保護する仕組みが必要なのだと改めて思いました。
(2016年4月)
オオタカの若鳥=仙台湾の海岸林で中嶋順一撮影
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