日本のアサリがピンチに!
〜世界最高水準のアサリ発生水域「六条潟」を脅かす二つの開発計画〜
アジアの浅瀬と干潟を守る会 山本茂雄
■六条潟(ろくじょうがた)とは
六条潟は、愛知県の平均水深9.8mの閉鎖性水域である三河湾の東部に位置する豊川河口に残る面積360haの砂礫(されき)干潟である。かつては3000haを超す広大な面積を持ち、主にハマグリ(Meretrix Lusoria)の産地で、六条潟がある豊橋市は、古くは3000年前からこのハマグリを養殖し、採取したあと干物にして交易を行っていた。
六条潟という名前は古く、室町時代にはこの名があり、由来は潮が干上がると、音羽川、佐奈川、江川、豊川、柳生川、梅田川が6つの澪(みお)筋(すじ)を干潟に刻んだためとされているが、「畳六帖干潟があれば一家が養えた」ほど貝や魚の宝庫だったため、漁師たちは六帖潟と記していた。
その後、1970年代から港湾建設のため2000haの埋め立てと浚渫工事で、豊橋市だけでも3000世帯あった漁業者たちが補償金をもらって陸に上がり、引き換えに三河湾は慢性的な赤潮と青潮に悩む日本一汚れた海になった。
■三河港次期港湾計画案
現在、愛知県から今年の1月5日に発表された三河港次期港湾計画案に基づいて、改訂作業が進められている。前回の計画が示されたのは平成7年で、残存する360haの六条潟ほぼすべてを埋め立て・浚渫(しゅんせつ)して、モータープールやコンテナ置き場と、それらを運搬する船舶が停泊するための停泊地になる計画が示されていた。
本来であれば平成17年度内には、この港湾計画は改訂されていなければならなかったが、六条潟が愛知県の主要漁業対象種のアサリ稚貝の唯一の供給地となっていたため、県内外の漁業水産関係者からの激しい反対にあって、港湾管理者である愛知県が話し合いの場を設けるものの、ずっと物別れに終わっていた。
直近に示された案では、干潟部分の埋め立ては避け、沖合に200haの人工島を建設するものだった。今回示された案では、干潟部分を約80ha埋め立て、埋立地の西側を浚渫して水深12mの停泊地を作り、沖合には静穏域を作るために防波堤を設け、臨海の埋立地を結ぶために六条潟の中心部を貫く湾岸道路を建設することが示された。
1月21日現在、愛知県内の漁業関係者、県内全てのアサリ問屋、日本の主要都市の中央卸売市場、19社の大手スーパーマーケットが、パブリックコメントに対して反対意見を表明している。
■設楽(したら)ダムについて
設楽ダムは、総延長77km、高低差約1000mの急峻な豊川の上流部に計画された、貯水量9800万m3の多目的ダムである。豊川にはすでに支流に宇連(うれ)ダム、大島ダムがあり、これらのダムからの利水で、飲料水、工業用水、農業用水とも需要を満たしており、近年の節水努力によって水余りも起こっている。
■六条潟及び三河湾への影響
設楽ダムには600万m3の堆砂容量が設定されており、このダムは干潟の天然更新のための良質な土砂を堰き止めてしまう。河口にある六条潟は、上流からの土砂供給が断たれ、波浪による浸食と拡散作用によって、日増しにやせ衰えてしまう。そればかりか、新しい砂礫が干潟表面をコーティングしないために、アサリ稚貝の発生量や浮遊幼生の着底率が著しく低下してしまう。
六条潟は日本のアサリ漁獲高のおよそ7割を占める日本一の産地愛知県産アサリを支えている、産地の産地である。六条潟のアサリ稚貝が減少すれば、当然ながら愛知県全体の出荷量も低下し、取引価格の上昇や、アサリがスーパーの店頭から消えてしまう地域も現れることが、ハマグリの先例からも容易に想像できる。
三河湾は、愛知県方式と呼ばれている六条潟で発生したアサリ稚貝を全県の漁場に放流肥育することで、2000年から10年間でアサリ漁獲高を約3倍に増やし、河川からの窒素・リンの排出抑制の必要がないほどに水質を改善させることに成功した。
設楽ダムと三河港の拡張計画は、アサリによって改善された三河湾の水質を、最悪のものにまで低下させてしまう、時代に逆行した施策であり、国連の生物多様性条約第10回締約国会議を開催したホストである愛知県には、速やかに白紙撤回を求めるものである。
(2011年1月)
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