■八ッ場ダムを止めよう!首都圏集会

【講演】

八ッ場ダム、ストップの可能性をさぐる

ノンフィクション作家 久慈 力氏





 私のほうからは、八ッ場ダムをどうしたら止めるかということについて、私の経験を含めてお話させていただきます。

■八ッ場ダム問題で一斉住民訴訟の動き
 実は、ちょうど1週間くらい前、全国市民オンブズマンの弁護士から電話がありました。公共事業の部会で八ッ場ダムについて各県レベルで住民訴訟を起こそうじやないか、という話が煮つまっているとのことです。
 オンブズマンには、いろんな弁護士さん、市民団体の方が加わっています。八ッ場ダムで運動されている方と協力して、各県で住民訴訟、すなわち各県で負担金支出について違法な支出であるという形で、できればいっせいに住民訴訟を起こすということです。そういう話があって、私にも要請があありました。  きょうは、各地で運動をされている方がたくさんいらっしゃいます。そういう良いタイミングで話がありましたので、あとでオンブズマンの方から発言していただきたいと思います。これは八ッ場ダムをストップするうえで重要な裁判になると思いますので、ぜひ協力していただきたいと思います。

■公共事業を凍結・中止させる成果がでている
 私は、作家と住民運動家の両面をもっています。これまで、ゴルフ場反対運動などを10年以上やってきて、ゴルフ場計画を数多くストップさせるなどの成果がありました。
 佐藤謙一郎さんの話にあったように、公共事業の問題はむずかしいということがあります。しかし、バブル崩壊以降、とくに行政の財政難、つまりお金がないということで事業が大幅に遅れるとか、一時凍結、あるいは凍結宣言、もうやめるという事例がかなり増えてきています。
 たとえば、私がかかわった首都圏中央連絡道では、茨城県で中村喜四郎のルート変更疑惑について追及してかなり計画を遅らせてきました。首都機能移転の問題も、だいぶ前にネットワークをつくって運動して、これも、中止とは言っていませんが、凍結状態になっています。この事業は、おそらく日本最大の公共事業だと思いますが、13兆円の事業です。これも財政難の問題が大きくかかわっています。

■防衛庁を相手に事実上の完全勝利
 それから、防衛庁の情報の問題です。これは私個人の問題ですから、弁護士なしでやりました。結果は、新聞各紙が大きくとりあげました。毎日新聞は、夕刊一面トップでとりあげてくれました。
 実はこれもいろんな紆余曲折があって、半ばあきらめていた部分もあったんですが、決してあきらめないで裁判を起こし直して、ようやく勝訴しました。
 最初の段階では、本人訴訟ですから国家賠償法にもとづき、一般的には国そのものを被告にするのですが、私は小泉純一郎以下防衛庁幹部を被告にしないと気がすまないので、6人を被告にしました。その段階では書類がまだそろっていなかったので難しいかなと、1回目の口頭弁論でもう結審という、それであきらめていたらダメなわけで、防衛庁から法律にもとづいて資料を取ると、「ジャーナリストのはしくれ」と書かれたものが出てきて、もう一回、国を相手に訴訟を起こし直しました。  こうやって裁判を始めたのですが、前の裁判長よりまだ悪い状態でした。
 これもまったくダメかなと思ってやっていたのですが、防衛庁のほうがなかなか反論してこないんです。半年くらい全く反論してこないという状況があって、流れが変ってきました。ひょっとしたらいけるかなと思いました。
 大きな判決の時には、マスコミが1週間くらい前から取材を始めるんです。もちろん内容については言いませんが、「久慈さんは何年生まれですか」という具合にです。そうすると、ひょっとしたら勝ちかな、というのが読めてきたので、堂々と判決を聞きました。もちろん内容には不満なところもあります。プライバシーの侵害ということが認められたが、200万の請求が10万円認められたということで本人よりまわりの弁護士きんたちがびっくりしました。
 さらに、国が負けた判決について控訴しない、というのはこれまでほとんど例がないらしいです。私は控訴審でも勝てるからどうぞやってください、主張したいこともまだあるからどうぞやってください、と考えていたのですが、控訴断念ということで、それでまた弁護士さんたちがびっくりして、すぐ結審ということで、事実上は完全勝利でした。
 そういう形で運動をつくり、不利な状況になっても絶対あきらめないで、いろんな形でどんどんやっていく。そういう運動を継続することによって新たな展望が出てくる。──これが、私のこれまで何十年の運動の経験です。
 八ッ場ダムの問題も、もう決着がついたとか、これから運動をやってもダメだなど、マスコミ関係もそういう風潮が多いんですが、きょう来られている方は、まだあきらめないでストップできるということでいらしているので、私自身も八ッ場ダムをストップさせる可能性があると思っています。

■八ッ場ダムの関連工事で膨大な資料集め
 私の八ッ場ダムのとりくみは2000年の秋だったと思います。群馬の友人からこういう問題があると聞きまして、こんなとんでもないことがまだ続いているんだと思いました。
 それで、現地へ行ったり、仕事柄、何かまとめてアピールできるのではないかということもありますし、本をまとめるという作業は、一つは裁判に役立つのじやないかと考えました。
 取材・資料集めなどを徹底してやりました。国交省、群馬県とも、最初は情報を出したがらないので苦労しました。仕方ないから情報公開の手続きをして、異議申立てをして非公開をひっくり返して公開させたこともありますし、情報公開の裁判を起こしたこともあります。「もし非公開の決定があれば異議申立てをしますし、裁判もします。あなた方が非公開という決定を出せば、知事が被告になりますよ」とやんわり話をしたら、ガラッと顔色が変って、それ以降ほとんどこちらが請求したものは全部出すという状況になりました。担当者が一人ついて、私が電話しますと、これはきちんと準備しますからと、全部公開してくれました。
 とくに、こういう公共事業では契約関係の書類が大切です。そこで、八ッ場ダム関連事業の契約に関する一切の文書について出してくれ、というような請求をしました。かなり膨大なものですが、コピー代もかかり、全部とるわけにはいかないので、その中から選択して、たとえば入札執行中というものまで出してきます。
 八ッ場ダム水源整備事業という形で、3億3千万くらいの事業ですが、15社くらい入札していて、みんな2億3千万台できれいに並んでいます。1社だけが2億2950万円ということで出ています。これは、お役所から入札価格が漏れているということです。談合していなければ、こういう数字は出てきません。これで談合情報もあったということを証明してくれる人がいれば、これは刑事問題ですし、刑事告発の対象になります。情報公開で徹底して内部文書を引き出すということもやっていくと、そういうデータも出てきます。

■ぜひ住民訴訟をやっていただきい
 今の時点で裁判・住民訴訟を起こす場合、1年以内という限定があるので、また新しく情報を取らなくてはならないということがあります。しかし、オンブズマンの弁護士さんもやってくれるということです。各県で活動している人がいるので、そのへんは皆さんと協力してやっていただければ、同時に提訴するというのは非常にインパクトを与えると思います。ただ、住民訴訟の差し止め訴訟でダム本体工事を止めるのは難しいという面もあります。
 裁判というのは、提訴して違法なことをやった首長さんを被告にするということです。口頭弁論で違法性を明らかにしていくということです。私みたいに、間違ってというか、勝っちやうこともありますし、とにかく万一良い結果が出なかったとしても、裁判をやったことはきちっと残るし、かなりブレーキになります。ぜひ住民訴訟をやっていただきたいと思います。
 ただ、訴訟になると、弁護士さんに任せるということではダメです。私もダム事業で住民監査請求をやったのですが、私一人の力量ではなかなか裁判まで持っていけません。地元(県内)の方もいろいろ協力してくれましたし、弁護士さんも手弁当でやってくれるんじやないかという人もいましたが、なにせ私一人で埼玉県から群馬県に出かけていって、いろいろほかの問題も抱えていて、その時は訴訟はできなかったんですが、全国市民オンブズマンみたいな強力な団体が一緒にやろうということであればできると思います。ですから、勝ち負けに関係なくやるべきだと考えています。ただ、裁判やっていれば良いということでなく、やれることは徹底してやる、いろんなことを試してみるということが必要です。

■「住民に負担させるな」という運動を
 国と地方公共団体、外郭団体を含めて千数百兆円の借金を抱えている訳ですから、国も地方もどうやって財政支出を減らすかということで奔走しています。
 先ほどの佐藤さんの話でも、八ッ場ダムの建設費用が2100億円から4600億円に膨れ上がったとか、関連事業を含めると8769億円になるということでした。おそらく、最終的には数兆円のとんでもないことになります。そうすると、今回のようにまた増やしていく、階段とびに増やしていくことになると思います。
 その時に、たとえば戸倉ダム(群馬県の片品村に建設予定されていたダム)は、埼玉県が水利権を放棄し、埼玉県の負担分1400億円を負担できないということで事実上中止になりました。
 こういう形を、八ッ場ダムの場合も、個々には埼玉県とか千乗県とか群馬県・栃木県という形で出ていますが、戸倉ダムの場合も八ッ場ダムの場合も事業費の負担については同じ構造な訳です。群馬県だけでなく下流の水利権、水をもらうところで負担しています。
 八ッ場ダムの場合も、どこか埼玉県でも千葉県でも、費用負担しないということになれば、建設は難しくなります。今後も、こんな理不尽な、毒水を飲ませる事業に何兆円も使う、そういうようなダムについて、県レベル、国レベルでもよいのですが、働きかけて止めさせることが必要です。
 こういう財政難の折に、「住民に負担させるな」「金を出さない」という運動をすすめていく。そして、それによって財源不足に追い込む。たとえば2004年では東京では1751億円財源が不足する、千葉県は400億、群馬県も249億円、どんどん赤字が累積している状況の中で、八ッ場ダムをやめることでどれだけ自治体の負担が減るか、そのへんについても議会に働きかけていくということが必要だと思います。

■知事を動かすことも必要
 ご存知のように、この数年前から無党派系の県知事が、長野県・田中知事、千葉県・堂本知事、埼玉県・上田知事などが出て、公共事業の見直しということを言っています。田中知事は脱ダム路線を継続しています。ところが、期待した堂本さんのほうはふらふらして、どうも住民を裏切っているのではないかというふうに考えますし、八ッ場ダムでも事業費の増額に同意するということがあります。
 上田知事の場合も公共事業の見直しということは前面に出していますが、残念ながらこの八ッ場ダムについては負担増もやむを得ないと言いだしました。
 ただ、堂本さんも上田さんも、あの人はダメだ、とあきらめるのではなく、財政が厳しいと、何とか八ッ場ダムの負担金を減らしてくれというふうに言っている訳ですから、堂本や上田はダメだ、と切ってしまわないで、そういう部分についてはこれは後押しする、ということも必要ではないかと思います。
 住民運動が盛り上がればそういう流れも出てくると思います。やはり知事を動かして八ッ場ダムの負担金をやめさせるという方向は継続する必要があります。

■八ッ場ダム関連工事をめぐる癒着構造
 今日のレジュメの中に、八ッ場ダム関連事業の癒着構造、という表がありますが、これはなかなかたいへんです。
 国交省、都、県・町、それから国交省の外郭団体、公益法人それから県議会議員、町会議員、ゼネコン関係、これらのつながりを表にしました。情報公開で得たものが反映されていますが、こういう形で大手ゼネコン、鹿島も大成も、本体工事で受注するのではないかと思います。鹿島建設のほうは中曽根系、大成建設は福田系ということで、これも本体工事の受注でかなり綱の引き合いがあったし、今後もあります。大手ゼネコンをめぐる利害の対立、政治家の間の利害対立が起きてくるということです。
 いま中曽根陣営が多少弱まってきていますが、利権の争奪戦を繰り広げる可能性があります。内部亀裂が暴露合戦になる可能性もあります。大手ゼネコンだけでなく、県内の、あるいは町内のゼネコンもそういう系列がある場合もあるし、干されている業者がいろいろな談合情報を漏らすということもあります。それに行政マンが噛んでいたりすると汚職という話になるので、もしそういうことが発覚すれば誰でも刑事告発という形で業者と役人を告発できます。それがきちんと立件されれば、逮捕・起訴という形になって、それが本体工事だけでなく関連事業でもいいですが、そういう重大な違反があれば工事は遅れます。  それから、いろんな本体事業なり関連事業なりの行政手続きがあって、それが違法に行われるということがあれば、そういうものについても告発する。それもかなりブレーキになります。
 刑事告発なり住民訴訟は、敗れる可能性はありますけど、そういう形で首都圏で協力して裁判なり、県への働きかけなどをしていきたいと思います。

■いろんな形で運動を継続すれば中止に追い込める
 公共事業は、行政マンが自分でこの事業は中止します、ということはなかなか言いません。言わないけど、事実上進まなくなる状況があって、だんだん凍結状態が続いて、いつのまにか事業がなくなってしまう、という形で止まるのが普通です。いろんな形で事業を引き延ばすという形で、裁判などやると、どんどんスピードが鈍ってきて、進行しなくなり、凍結状態になります。そういう形で事実上消えてしまうということがありますので、いろんな形で運動を継続するということで私は八ッ場ダムも中止に追い込むことができると考えています。
 オンブズマンの方からの意見もありましたので、今後も八ッ場ダムの中止に向けて皆さんと一緒にやっていければと思います。

(文責・全国自然保護連合事務局)





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