■「自然と環境を守る全国交流会」参加団体


高尾山の自然をまもる市民の会









1.圏央道をめぐる動き

 首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の都内部分(青梅〜八王子)の建設計画が地元住民に知らされたのは1984年夏。都心に集中する東名、中央、関越、東北などの放射状高速道路を圏央道で分散させ都内の渋滞緩和解消を目的とする。バブル経済の遺物である圏央道は、少子齢化社会、将来交通需要減少という現在、中止を視野に入れた検討が必要である。
 圏央道は国史跡八王子城跡と国定公園高尾山を直径10メートルのトンネルで串刺しにすることで、裁判をはじめとした建設中止の運動が続いている。


2.道路を造らなくても渋滞はなくせる

 80年代、ヨーロッパの大都市も渋滞に悩んだ。イギリスはロンドン市内の渋滞緩和のため8車線の環状道路M25を整備したが、渋滞解消どころかM25自身が渋滞した。98年に政策を大転換し、市内に流入する車に8ポンドを課税、結果、渋滞は大きく減少した。他の環境先進国なども鉄道、バス、路面電車などの公共交通を充実させ、徒歩や自転車利用を進めている。
 こうした交通政策は、大気汚染公害や地球温暖化の防止にも効果をあげている。道路ネットワークを整備して都市の渋滞をなくそうという考え方は20世紀の逆立ちしたパラダイムである。東京外環道や圏央道建設などの高速道路建設を強引に進めた自公政権、その後の民主党政権の交通政策は、時代遅れと言わざるをえない。
 民主党の「コンクリートから人へ」は掛け声だけに終わった。政・官・業のトライアングル構造で進められてきた道路建設はいっこうに止まらない。


3.生物多様性の宝庫

 高尾山は都心から電車でわずか1時間。公園面積770ヘクタールは日本最小、標高はわずか599メートル。しかし、日本の1/4近い1300種の植物種と5000種以上の昆虫、130種の野鳥、28種の哺乳類などが生息する多様な生物の宝庫である。
 豊かな生態系は豊かな地下水に依存している。600mに満たない低山に樹齢300年を越すブナの巨木があるには驚異的である。奈良時代の中期、僧行基が開山したと伝えられるが、宗教上、軍事上、政治上の理由で殺生禁断の掟を守り続けてきたことが天然の生態系が保たれてきた理由だ。
 すでにトンネルを掘った国史跡・八王子城は御主殿の滝が涸れ、地下水位は工事前の水位に戻らない。高尾山はスポンジが水を含んだような山である。滝行で有名な琵琶滝直下を貫くトンネルは、地下水脈に大きな影響を与える。トンネル掘削の進行にともない観測孔の地下水位が急速に下がっている。地下水破壊は、高尾山の生態系破壊につながる。


4.地球温暖化問題からの視点

 地球温暖化の進行が問題になっている。産業革命後の大量生産・大量消費・大量廃棄の経済活動が、引き起こしたものだ。経済優先の社会のあり方を転換しないと、人類の生存基盤そのものが危ぶまれる。  欧州の環境先進諸国は、高速道路は地球温暖化防止に逆行するとして、新規の道路建設はせず公共交通や自転車利用を進め、車依存社会からの転換をはかっている。都市の暮しのあり方を考え直さなければならない。高尾山と圏央道問題は、私たちに環境と社会活動、経済活動のあり方を提起している。


5.おわりに

 高尾山天狗裁判が進行し、圏央道の公益性、とりわけ費用便益比(B/C)分析が大きな争点になった。B/Cが1.0以下の道路は造らないというのが、政府見解である。私たちのコンピュータシュミレーションでは、B/Cは0.38だった。法廷における国交省現役課長の証言は、B/Cの疑問にいっさい答えなかった。
 2009年10月、広島地裁は、歴史的遺産である鞆の浦の公水面埋め立て工事を差し止める画期的な判決を下した。宝の海・有明海の諫早干拓事業でも福岡高裁は開門を命じ、政府は上告を断念した。司法による行政へのチェック機能が働きだした。



《費用便益比(B/C)とは》
 道路整備効果のうち、@走行時間短縮の経済効果、A走行経費減少、B交通事故減少の3便益(B)を予測数値化し、維持管理費と全体事業費(C)で割った値。通常「B/C」(ビー・バイ・シー)と略す。この数値が高いほど整備効果があるとし、1.0を下回る事業は中止するとしている(08年2月の衆議院予算委員会での冬柴国交大臣答弁)。
(2011年9月)







高尾山トンネル北孔口の工事現場



高尾山トンネル北孔口の工事現場






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